欧州単一通貨ユーロを取り巻く環境が、ギリシャの財政危機で揺れている。ギリシャ政府は先ごろ財政再建策を発表したが、信用不安を払しょくするには至らず、国債市場は混乱。ユーロの信認を保つためにEUが救済に乗り出すとの観測が飛び交う状況だ。さらに、ギリシャ以外の国の財政不安もくすぶっており、ユーロは大きな正念場を迎えている。
\ギリシャの2009年の財政赤字は、ユーロ圏で最悪の国内総生産(GDP)比12.7%。EU財政規律の上限である3%を大幅に上回る。政府の債務残高は上限のGDP比60%をはるかに上回る113%に達している。これがユーロの信用を低下させ、ユーロ安基調が続いている。対ドルでは6カ月ぶりの低水準にある。
\EUから赤字是正を迫られた政府は、2012年末までに赤字をGDP比3%以下に抑えることを目指し、1月中旬に財政再建策を発表した。しかし、市場では評価されていない。前提となる経済成長率を楽観的に見積もっていることや、脱税対策強化などによる税収増という不確定要素に頼りすぎ、歳出削減努力が足りないという見方が多いためだ。欧州のメディアでギリシャのデフォルト(債務不履行)や、ユーロ“離脱”がささやかれ、関係者が連日のように火消しに追われる状態となっている。
\政府は財政危機克服のため、年内に国債発行で530億ユーロを調達する計画で、25日には財政危機が深刻化してから初の起債となる5年物国債80億ユーロを発行。不安をよそに250億ユーロの応募があって起債は成功し、財政危機が広がる懸念が少し緩和されたかにみえた。
\だが、応募が殺到したのは、利回りが指標となるミッドスワップ・レートに3.5ポイント上乗せした6.2%と高水準に設定されたため。調達コストを考慮すると、残りの起債も同水準にするわけにはいかない。ギリシャが今後、中国に国債を売り込むとの報道まで出た。起債成功を受けて一時は縮小した10年物ギリシャ国債と、ユーロ圏の指標であるドイツ国債の利回り格差は再び広がり始め、29日にはギリシャのユーロ導入以来最大の4%を一時突破した。デフォルトなどの噂が飛び交うごとに信用不安が増幅され、市場の混乱が深まっている。
\ \(中間タイトル)EUは飛び火警戒、ギリシャ支援も
\ \こうした中で浮上しているのが、EUによるギリシャ支援の可能性。28日には仏ルモンド紙が、独仏などが水面下で支援を検討中と報じた。その背景には、ギリシャがデフォルトに陥ると、他のユーロ参加国に信用不安がドミノ現象のように広がりかねないという不安がある。
\ユーロ圏で財政が悪化しているギリシャだけでなく、フィンランド、ルクセンブルク、キプロスを除く13カ国が財政規律に違反している。26日にはポルトガルが、09年の財政赤字がGDP比9.3%に膨らんだと発表。29日にはスペインが、同年の赤字が11.4%に達したことを明らかにした。ギリシャ経済はユーロ圏GDPの2.5%を占めるに過ぎず、危機は吸収可能だが、同じように双子の赤字を抱えるスペイン、ポルトガル、イタリア、アイルランドなどに信用不安が飛び火すると、これらの国も国債利回りが拡大し、資金調達コストが膨らむことになる。実際、ポルトガル国債の利回りは6カ月ぶりの高水準で推移しており、市場では「ユーロ圏の片隅の財政危機を放置して中心部の資金コストを高騰させるわけにはいかない」として、支援観測がくすぶっている。
\ギリシャのパパンドレウ首相は29日、「財政再建計画の実行あるのみだ」と述べ、支援の可能性を否定。独仏も「根拠のない噂だ」(独財務省報道官)と一蹴している。EU関係者も公式には支援を否定している。しかし、「経済政策が国家だけの問題ではなく、EUの問題であることは明白だ」(欧州委員会のバローゾ委員長)、「ユーロ圏は強いきずなと相互支援があるクラブだ」(議長国スペインのザパテロ首相)といったギリシャ救済に含みを残す発言も出始めており、空気は変わりつつあるようだ。
\EUでは財政危機に陥った国への直接的な支援は禁じられているが、例外的措置として、ユーロ参加国が共同でユーロ債を発行する案などが取りざたされている。
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