2010/5/10

財政危機のユーロ参加国に7500億ユーロ、EUが新支援制度創設

この記事の要約

EU加盟国は10日開いた緊急財務相会合で、ギリシャ危機が飛び火して資金難に陥った国が出た場合に最大7,500億ユーロの緊急支援を行う新制度「欧州金融安定化メカニズム」の創設を決めた。ギリシャ発の信用不安が拡大し、ユーロ圏 […]

EU加盟国は10日開いた緊急財務相会合で、ギリシャ危機が飛び火して資金難に陥った国が出た場合に最大7,500億ユーロの緊急支援を行う新制度「欧州金融安定化メカニズム」の創設を決めた。ギリシャ発の信用不安が拡大し、ユーロ圏全体を揺るがす事態となっていることを受けたもの。ポルトガル、スペインなど第2のギリシャとなることが懸念される国に対して、危機に陥った際に即応できる態勢を整えておくことで市場の不安感を静め、信用不安が波及するのを防ぐ狙いがある。一方、同日には欧州中央銀行(ECB)もユーロ参加国の国債の買い取りを開始すると発表。さらに日米欧の主要6中央銀行は、協調して短期金融市場にドル資金を供給する方針を打ち出した。ギリシャ発の市場混乱が欧州外にも波及する中、金融安定に向けてリーマンショック時に匹敵する世界規模の対応を迫られる状況となっている。

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金融安定化メカニズムは、ユーロ圏16カ国が7日の緊急首脳会議で合意。詳細を詰めた上で、EU財務相会合の承認を得た。7,500億ユーロのうち5,000億ユーロはEUの枠組み。4,400億ユーロはユーロ圏諸国が負担し、深刻な財政危機に陥って国債で資金を調達するのが難しくなった国に融資保証を行う。さらに経済危機に陥った非ユーロ圏のEU加盟国を対象とする既存の緊急支援の枠組みを拡大し、ユーロ圏諸国を対象とした600億ユーロの緊急融資枠を設ける。残る2,500億ユーロは、国際通貨基金(IMF)が融資保証に加わる形となる。支援発動には、対象国にIMF融資と同等の条件を課す。

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ユーロ圏諸国は2日、IMFと協調してギリシャに今後3年間で総額1,100億ユーロの緊急融資を行うことを承認したが、同国のデフォルト(債務不履行)懸念は払しょくされず、市場の混乱は収まらなかった。ギリシャの首都アテネが、緊急融資の条件として政府が受け入れた厳しい緊縮政策、増税に反発する市民のデモが先鋭化し、放火事件で3人が死亡するなど騒乱状態に陥ったこともあって、財政再建が進むかどうか懐疑的な見方が広がっていることが背景にある。こうした動きはユーロ安、欧州株の値下がりを招いただけでなく、世界同時株安まで引き起こしていた。

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ユーロ圏ではギリシャ以外にもポルトガル、スペイン、イタリアなどで財政赤字が膨らんでいるが、これらの国に信用不安が波及して国債市場が大混乱することだけは避けたいところ。経済規模でギリシャを大きく上回るスペインなどが市場の標的となって、デフォルトの危機に陥れば救済は難しく、その影響はギリシャの比ではなく、ユーロ圏の破滅につながりかねないためだ。ところが、ギリシャ融資決定後も事態は好転せず、スペイン、ポルトガルの国債は売り込まれて利回りが急上昇。信用不安の連鎖が現実味を帯び始めた。  

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これを受けてユーロ圏16カ国は7日にブリュッセルで開いた緊急首脳会議で、新たな支援制度の創設を打ち出した。首脳からは、「ユーロ圏全体を防衛しなければならない段階に入った」(仏サルコジ大統領)、「ユーロ圏は非常事態だ」(伊ベルルスコーニ首相)」といった危機感をあらわにする声が相次いだ。最終的に決まった新支援制度の規模は予想を上回るもの。市場が再開する週明け10日に間に合わせてまとめたところに、切羽詰った思いがうかがえる。欧州委のレーン委員(経済通貨問題担当)は「なにがあろうともユーロを守るという決意の表れだ」と語った。

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ドル供給、日銀も参加

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一方、ECBは「ユーロ圏の機能不全に陥った市場での流動性を確保するため、国債、民間債券市場に介入することを決めた」と発表し、ユーロ圏の財政不安がある国の国債および民間債券を市場から買い取る方針を打ち出した。ECBは6日の定例政策理事会で、信用不安拡大を防止するためギリシャ国債などの買い取りに踏み切るとの観測が出ていたが、同措置を否定していた。しかし、市場の混乱を抑えるには思い切った措置が必要との市場の声に押された形で、方針転換を迫られた。買い取り額は不明。ECBは昨年、ユーロ圏で発行される600億ユーロ規模の担保付き債券(カバードボンド)を買い取る措置を実施したが、国債の買い入れは初めてだ。

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ドル資金の協調供給に加わるのは、ECB、米連邦準備制度理事会(FRB)、日本銀行、英イングランド銀行、スイス国民銀行、カナダ銀行。ユーロ圏の信用不安に伴い金融市場でドル資金が不足していることに対応したもので、各中銀がFRBとの外貨スワップ協定を再開し、市場に供給する。

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FRBと主要国・地域の外貨スワップ協定は、世界の金融市場がサブプライムローン問題で揺れていた2007年12月に開始され、リーマンショックの際に拡大されたが、今年2月までに失効していた。

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一連の措置を市場は好感しており、前週に対ドルで14カ月ぶり低水準に値下がりしたユーロは10日、アジア市場で上昇に転じている。

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対ギリシャ協調融資、正式承認

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7日のユーロ圏首脳会議では、ギリシャに対するIMFとの協調融資が正式承認された。融資額はユーロ圏が800億ユーロ、IMFが300億ユーロ。IMF理事会は9日に融資実施を承認した。

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ユーロ圏ではギリシャを除く15カ国が、欧州中央銀行(ECB)への拠出割合に応じた額で2国間融資を行う。融資額はドイツが最大224億ユーロと最も多い。ユーロ圏による融資は各国議会の承認が必要で、7日までに独、仏を含む9カ国が承認済み。初年度融資の第1弾は、ギリシャが85億ユーロの国債の償還期限を迎える19日までに実行される見込みだ。

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このほか同日の首脳会議では、EUの財政規律を定めた「安定成長協定」が厳格に適用されてこなかったことがギリシャの財政赤字拡大を招き、16カ国のうち13カ国が規律に違反するという事態になっていることの反省を踏まえ、各国の財政監視を強化することや、規律違反国への「効果的な制裁」措置発動を検討していくことで合意した。

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