2011/11/28

総合 –EUウオッチャー

欧州委が「ユーロ共同債」提案、各国の財政監視強化も

この記事の要約

欧州委員会は23日、欧州の信用不安対策の一環として、ユーロ圏17カ国が共同で債券を発行する「ユーロ共同債」構想の具体案を発表した。また、同構想実現の前提として、ユーロ参加国に対する財政監視体制を強化することを提案。各国の […]

欧州委員会は23日、欧州の信用不安対策の一環として、ユーロ圏17カ国が共同で債券を発行する「ユーロ共同債」構想の具体案を発表した。また、同構想実現の前提として、ユーロ参加国に対する財政監視体制を強化することを提案。各国の予算編成にEUが介入できるようにすることなどを打ち出した。

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ユーロ共同債構想は、ギリシャなど財政悪化国の国債利回りが急上昇し、単独での資金調達が困難となっていることを受けたもの。ユーロ圏が債務を連帯で保証する共同債を発行することで危機国の資金調達を支える狙いがある。すでにEUは、ギリシャなど3カ国に欧州金融安定基金(EFSF)による金融支援を実施しているほか、EFSFを2013年半ばから引き継ぐ恒久的な支援の枠組みとなる「欧州安定メカニズム(ESM)」の創設を決めているが、新たな安全網として共同債構想を実現したい考えだ。

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欧州委は「安定債」と名づけたユーロ共同債について、◇各国が発行する国債を全面的に共通債に切り替え、債務は17カ国全体で保証する◇共通債への切り替えは一部にとどめ、各国が引き続き国債を発行する。共通債の債務は全体で保証する◇切り替えは一部にとどめ、共通債の債務も一部の国だけが保証する――の3案を提示した。欧州委はどの選択肢が望ましいかについては触れておらず、各国で協議した上で固める方針だ。

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財政監視体制の強化は、財政危機問題の抜本的解決が目的。ユーロ圏各国の財政状況がばらばらでは、ユーロ共同債で財政悪化国が得をして、健全な財政を保っている国が負担を強いられるという構図を是正する意図もある。欧州委の提案はユーロ圏各国が次年度予算案を毎年10月半ばまでに、議会に提出する前に欧州委に提示し、審査を受けるという内容。EUの財政規律に反する内容である場合は、修正を指示する。欧州委は独立した委員会を設立し、厳正に審査する。また、査察官を各国の財務省に派遣し、財政状況をチェックする権限を持つ。

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このほかEUには、財政危機国に対して、EUと国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請するよう勧告する権限が与えられる。アイルランドとポルトガルが、財政危機が深刻化しているにもかかわらず、しばらく支援要請を拒んだことで、状況が悪化した反省を踏まえたものだ。

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EUの財政規律では、財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内、累積債務を同60%以内に抑えることが義務付けられている。しかし、違反した場合の罰則規定が適用された例がなく、この甘い体質がギリシャなどの放漫財政を招いた一因となった。このため、すでにEUはルールを改正し、来年1月から規律違反国への制裁をスムーズに発動できるようにすることを決定済みだが、欧州委はさらに踏み込んで各国に規律順守を迫る。

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共同債構想をめぐっては、財政が強固で国債が最高の格付けを得ているドイツなどが、共通債に切り替えられれば利回りが上昇し、資金調達コストが膨らむとして反対していた。欧州委のバローゾ委員長は、米国に匹敵する共通国債市場の誕生で金融が安定するとして提案に踏み切ったが、独メルケル首相は議会で「不適切で機能しない」と即座に反発。フィンランド、オランダなども反対している。一方、財政監視に関しては、財政悪化国の反発が避けられない。

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EUは12月の首脳会議で欧州委案について協議するが、調整の難航は必至で、実現は微妙な情勢だ。

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