2012/1/16

総合 –EUウオッチャー

S&Pがユーロ圏9カ国を格下げ、仏は最上級から転落

この記事の要約

大手格付け会社の米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は13日、ユーロ圏9カ国の長期信用格付けを引き下げたと発表した。信用不安問題へのEUの対応を不十分と判断したもので、フランスとオーストリアが最上級の「ト […]

大手格付け会社の米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は13日、ユーロ圏9カ国の長期信用格付けを引き下げたと発表した。信用不安問題へのEUの対応を不十分と判断したもので、フランスとオーストリアが最上級の「トリプルA(AAA)」から格下げされた。さらに、フランスを含む14カ国の格付け見通しを「ネガティブ」とし、今後の格下げを示唆した。格下げ対象とならず、見通しも「安定的」とされたのはドイツだけだった。ユーロ圏では、ギリシャの債務棒引きに関する民間銀行との交渉が難航し、同国が3月に制御不能なデフォルト(債務不履行)に陥る懸念も出ており、ここにきて信用不安が一段と深刻化する恐れが出てきた。

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格下げされたのは、すでに最低格付けとなっているギリシャを除くユーロ圏16カ国のうち9カ国(表参照)。フランス、オーストリア、スロバキア、スロベニア、マルタが1段階、イタリア、スペイン、ポルトガル、キプロスが2段階引き下げられた。フランスとオーストリアは最上級から転落。ポルトガルとキプロスはギリシャと同じく投機的とされる水準に設定された。イタリアはEU、国際通貨基金(IMF)から金融支援を受けているアイルランドと同水準になった。フランスが最上級格付けから外れるのは1975年以来。

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さらにS&Pは、最上級に据え置かれたオランダ、フィンランド、ルクセンブルクを含む14カ国の格付け見通しを「ネガティブ」とした。同見通しが「安定的」とされたのはドイツ、スロバキアの2カ国にとどまった。

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S&PはEU首脳会議を目前に控えた昨年12月初め、ギリシャを除くユーロ圏の格付けを一斉に引き下げる方向で検討していることを明らかにしていた。同月8、9日に開かれた首脳会議では、財政規律強化に向けた新条約の制定、EU版の国際通貨基金(IMF)と呼ばれる「欧州安定メカニズム(ESM)」の創設前倒しで合意したものの、財政危機に直面するユーロ参加国に緊急金融支援を行う「欧州金融安定基金(EFSF)」の規模拡充は先送りされた。また、新条約についても、英国の反対でEU基本条約を改正する形とはならず、参加は同国を除く26カ国にとどまる。

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S&Pはこうした結果を「合意内容は規模、範囲とも危機対応として十分ではない」と酷評した上で、重債務国への支援に必要な「十分な資源、行動の柔軟性」に欠けると指摘。信用不安打開の目途が立たず、各国の信用力が低下しているほか、景気見通しも悪化していることなどを格下げの理由に挙げた。

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中間タイトル EFSF債も格下げか

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ユーロ圏の信用不安は今年に入って、財政危機に直面するイタリア、スペインの国債利回りが低下傾向にあるなど、打開に向けた明るい兆しがのぞいていた。今回の格下げは、こうした気運に水を差した格好で、同日の外国為替市場ではユーロ売りが加速。ユーロは対ドルで16カ月ぶりの安値となる1ユーロ=1.2624ドルまで下落した。対円でも1ユーロ=97.20円まで下落し、2000年12月以来の安値をつけた。欧州委員会のレーン委員(経済通貨問題担当)は同日発表した声明で、S&Pの決定を「ユーロ圏が結束して、危機対応に断固とした措置を講じていることを無視した無節操な措置だ」と批判した。

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今回の格下げによってイタリアなどの国債の利回りが再び上昇に転じ、国債償還に必要な資金調達が困難となる恐れがある。さらに、EFSFの資金調達にも悪影響を及ぼしかねない。同基金への信用保証でドイツに次ぐフランスの格下げで、EFSF債の信用力が弱まり、格付けが「トリプルA」から引き下げられる可能性があるためだ。S&P国債格付け委員会のジョン・チェンバース委員長は、EFSF債が最上級格付けを維持するためには、「トリプルA」に据え置かれたドイツ、オランダ、フィンランド、ルクセンブルクによる信用供与の拡大が必要と指摘している。

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一斉格下げと同時にユーロ圏に冷や水を浴びせたのが、ギリシャの債務減免問題だ。ユーロ圏は昨年10月の首脳会議で、ギリシャへの第2次支援実施の条件として、同国の国債を保有する民間銀行に自主的な債務の50%棒引きを求めることを決定。政府は銀行側と債務棒引きのメカニズムについて協議している。しかし、政府は13日、銀行を代表する国際金融協会(IIF)との協議が難航し、交渉を一時中断したと発表。18日に再開される予定だが、交渉がまとまらなければ総額約1,000億ユーロに上る第2次支援が実施されず、3月の国債償還が不可能となることから、デフォルトの懸念が再燃している。

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消息筋がブルームバーグに明らかにしたところによると、交渉で最大の焦点となっているのは、ギリシャが新たに発行する国債に買い換える際の利回り設定。政府は流通利回りを大幅に下回る4%での引き受けを求めているが、銀行側は難色を示しているという。

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