欧州委員会は5月31日、ドイツがEUの「電子通信データの保存に関する指令」を履行していないため、欧州司法裁判所に同国を提訴したと発表した。EU加盟国は09年3月までにデータ保持指令を国内法に転換することが義務づけられていたが、ドイツでは連邦憲法裁判所が2010年3月、EU指令に沿って制定された「通信データ保持法」が重大なプライバシー侵害につながるおそれがあるとして、政府に法律の見直しを命じた経緯がある。欧州委は違憲判決から2年以上が経過したにもかかわらず、依然として法改正が行われていない状態はEU法の履行義務違反にあたると指摘。同国に対して1日当たり31万5,000ユーロの制裁金を科すよう司法裁に求めている。
\06年に採択されたデータ保持指令は、捜査機関がテロや組織犯罪への関与が疑われる人物の通信記録を入手しやすくするため、域内の通信事業者やインターネット接続事業者(ISP)などに対し、6カ月から2年間の範囲で顧客の通信データを保存するよう義務づけている。ドイツでは同指令に基づいて08年1月、国内の事業者に携帯電話を含む通話記録(日時や相手の電話番号)、IPアドレス、電子メールのアドレスやメールヘッダなどを6カ月間保持するよう義務づけた「通信データ保持法」が施行された。しかし、同国では当初からプライバシー侵害などを懸念する声が強く、プライバシー保護団体AK Vorratの主導で市民3万5,000人が法律の無効化を求める訴訟を提起。連邦憲法裁判所は判決で、現行ルールではデータ保持のセキュリティが十分とはいえず、保存されたデータがどのように利用されているかも不明確などと指摘。「重大なプライバシー侵害」を引き起こすおそれがあると結論づけ、通信データを暗号化してセキュリティを強化するなど、データの管理と利用に関する規定を厳格化すべきだとの判断を示した。
\メルケル首相率いる与党・保守連合は判決を受け、データ保持の条件を厳格化した改正法案を提出したが、連立を組む自由民主党(FDP)はロイトホイザー=シュナレンベルガー司法相が中心となり、犯罪への関与が疑われる特定の人物のみを監視の対象とすべきだと主張。与党内の意見調整は難航を極め、法改正のめどは立っていない。
\欧州委は独政府に対して昨年10月と今年3月に警告書を送付したが、法制化プロセスの進捗状況に関する報告がなかったため、法的措置に踏み切った。
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