2013/5/13

産業・貿易

独産業界が金融取引税導入に反発、年金運用などのコスト増を懸念

この記事の要約

EU11カ国が2014年1月の導入を目指している金融取引税をめぐり、ドイツ産業界で反対する声があがっている。新制度では企業年金の資産運用や為替変動のリスク回避を目的とした株式や債券などの取引がすべて課税対象となるため、輸 […]

EU11カ国が2014年1月の導入を目指している金融取引税をめぐり、ドイツ産業界で反対する声があがっている。新制度では企業年金の資産運用や為替変動のリスク回避を目的とした株式や債券などの取引がすべて課税対象となるため、輸出企業を中心に新たなコスト負担が経営を圧迫するとの懸念が広がっている。金融取引税をめぐっては、英国が制度に不備があるとしてEU司法裁判所に提訴したほか、米国もEUへの反発を強めている。さらにドイツでもヴァイトマン連銀総裁が導入に批判的な見解を表明しており、11カ国は制度の見直しを迫られる可能性がある。

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「トービン税」として知られる金融取引税は、金融危機再発防止に向けた投機的な取引の抑制と、経営危機に陥った銀行を公的支援するための財源を金融業界に予め負担させるのが狙い。金融主権を重視する英国やルクセンブルクなどは当初から金融取引税の導入に反対しているため、EU加盟国のうち9カ国以上が法案などに賛同すれば、それらの国で先行導入できる「強化された協力」の枠組みに基づいて、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど11カ国で導入される。欧州委員会が今年2月に発表した具体案によると、株式・債券取引に0.1%、デリバティブ(金融派生商品)取引に0.01%の率で課税される。また、取引される金融商品がスキームに参加する11カ国で発行されている場合は、取引がどこで行われているかにかかわらず課税対象となる。

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フランスではすでに昨年8月から金融取引税が導入されており、ドイツのメルケル首相も早い段階から同制度に支持を表明していたが、英政府は先月19日、参加国以外での金融取引も課税対象とするルールは不当としてEU司法裁に提訴。ヴァイトマン独連銀総裁も先月、「金融取引税はレポ市場の阻害など、深刻な副作用をもたらす可能性がある」と発言して注目を集めた。

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上場企業と投資家の利益団体でフランクフルトに拠点を置くドイツ株式研究所(DAI)は8日、金融取引税が導入された場合、国内の有力企業24社のコスト負担は年間6億-15億ユーロに達するとの試算をまとめた。DAIのボルテンレンガー所長は「政府は金融取引税が企業に与えるダメージを理解していない」と述べ、とりわけ企業年金に深刻な影響が及ぶとの認識を示している。

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たとえば電機大手シーメンスは年金資源を株式などの金融商品で運用しており、同社の税務担当責任者によると、金融取引税が導入された場合の税負担は年間7,000万-1億ユーロに達する可能性があるという。一方、製薬大手バイエルの財務担当責任者も為替リスクを抑えるためのデリバティブ取引などに課税された場合、新たに年間1,500万-4,500万ユーロの負担が生じるとの見方を示している。

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