欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/7/11

EU情報

欧州議会が原子力もグリーンに認定、タクソノミー規則案を承認

この記事の要約

欧州議会は6日の本会議で、持続可能な経済活動かどうかを仕分ける「EUタクソノミー」について、原子力と天然ガスを脱炭素化に貢献するグリーンな投資対象と認定する委任規則案に反対する決議案を反対多数で否決した。これにより、欧州 […]

欧州議会は6日の本会議で、持続可能な経済活動かどうかを仕分ける「EUタクソノミー」について、原子力と天然ガスを脱炭素化に貢献するグリーンな投資対象と認定する委任規則案に反対する決議案を反対多数で否決した。これにより、欧州議会は一定の条件下で原子力と天然ガスによる発電を「持続可能」と分類する欧州委員会の提案を実質的に承認したことになり、閣僚理事会で不承認とならない限り、2023年1月1日付で委任規則が施行される。

委任規則は持続可能な経済活動として認定する際の基準を定めたもので、規則自体は22年1月から適用が開始されている。およそ500ページに及ぶ「グリーンリスト」では、風力や太陽光発電所の建設、低排出ガス車の生産、エネルギー効率化のためのシステム開発など、幅広い事業がグリーン投資の対象として分類されているが、加盟国間で意見が分かれる原子力と天然ガスについては結論を先送りしていた。

欧州委が2月に発表した委任規則の最終案によると、原子力については45年までに新規の建設認可を得るか、40年までに運転延長の認可を得ることを前提に、50年までに高レベル放射性廃棄物の最終処理施設について具体的な計画を策定するなどの要件を満たした場合に持続可能と認定する。天然ガスに関しては、30年末までに建設認可を受けた発電施設の場合、温室効果ガス排出量が二酸化炭素(CO2)換算で1キロワット時(kWh)あたり270グラム未満で、35年末までに再生可能または低炭素ガスに完全に切り替えることなどが要件となる。

欧州議会では経済金融委員会(ECON)と環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI)の合同委員会が6月、委任規則案に反対する決議案を賛成多数で採択。本会議で過半数(353人以上)の議員が賛成票を投じた場合、欧州委員会は委任規則案を撤回するか、修正する必要に迫られるところだったが、賛成278、反対328人、棄権33で決議案は否決された。

原子力を持続可能と認定する案をめぐっては、原発推進派のフランスや東欧諸国が支持する一方、ドイツやオーストリアなどが強く反対。天然ガスについてはドイツや東欧諸国が支持する一方、オランダやスウェーデン、デンマークなどが認定に難色を示してきた。

欧州委はこれに対し、原子力と天然ガスは再生可能エネルギーがベースとなる将来への移行を促進するための「暫定的なエネルギー」であり、持続可能との認定は「移行期における一時的な位置付け」と強調。両エネルギーに関連した事業を、50年までに域内の温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にするとのEUの目標達成に貢献する持続可能な経済活動と認定することで、民間からの投資を呼び込むことができると説明してきた。

しかし、原子力発電はCO2を排出しないものの、処分が難しい放射性廃棄物が出る。天然ガスは石炭より少ないものの、一定のCO2を排出する。また、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ロシア産化石燃料への依存からの早期脱却を目指す方針を掲げながら、天然ガスを持続可能と分類して投資を呼び込むことは、ロシアからの輸入増や、天然ガスへの中長期的な依存を招きかねないといった批判も出ている。

オーストリアのゲウェッスラー気候行動・環境・エネルギーは6日、ツイッターへの投稿で「原子力と天然ガスは気候変動対策に貢献しない。委任規則はグリーンウォッシング(実質を伴わない環境訴求)にすきない」などと批判。委任規則が施行された場合、無効化を求めてEU司法裁判所に提訴する方針を表明した。