ルクセンブルク当局が世界の大手企業との間で秘密の取り決めを結び、極めて低い法人税率を適用していた問題で、昨年まで同国の首相を務めていた欧州委員会のユンケル委員長は12日に記者会見を開き、企業誘致を目的とする優遇税制の導入を自身が主導したとの疑惑を否定した。欧州委はルクセンブルクやアイルランドなどが導入している課税措置について、違法な国家補助にあたる可能性があるとして調査を進めているが、EU内では同委を率いるユンケル氏の説明責任を求める声が高まっていた。ただ、同氏が間接的にせよ企業の課税逃れに加担したとの批判は収まっておらず、欧州議会では独自に租税回避の実態を調査する動きも出ている。
ユンケル氏に批判の矛先が向いた直接のきっかけは、米ワシントンに本部を置く国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が今月初め、ルクセンブルク当局が2002~10年に世界の大手企業340社以上との間で、税制上の優遇措置に関する秘密の取り決めを結んでいたとの調査結果を公表したこと。米飲料大手ペプシコ、米消費財大手プロクター&ギャンブル、スウェーデン家具販売大手イケアなどが対象に含まれており、これらの企業はルクセンブルクに事業実態のない子会社を設立し、さまざまな手法を用いて他国で得た利益を同社に移すことで低税率の適用を受けていたとされる。一連の取り決めはユンケル氏が首相兼財務相を務めていた期間に結ばれているため、同氏が優遇税制の導入に深く関与したとの見方が広がっていた。
ユンケル氏は会見で、ルクセンブルクの優遇税制は当局の主導によって導入されたもので、自身は「制度設計」に関わっておらず、財務相の監督権限も限られていたと釈明。そのうえで、当時の首相としてこの問題に関して「政治的責任」があると述べた。同氏はさらに、欧州委員長として「倫理に反する課税逃れ」に厳しく対処する姿勢を改めて強調し、「EU共通の課税基準」を導入して加盟国間で税制を調和させることが企業による課税逃れの防止につながるとの考えを示した。
一方、欧州議会ではリベラル系の欧州自由民主連盟(ALDE)が、域内における租税回避の実態を調査する特別委員会の設置を要求している。委員会の設置には経済・金融委員会の承認が必要だが、同会派は一部の加盟国と企業の間で交わされた課税措置に関する取り決めや、節税対策に用いられている会計手法などについて明らかにすることが調査の狙いで、ユンケル氏の責任追及が主な目的ではないと説明している。