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2019/1/21

EU情報

英議会がEU離脱案を否決、メイ首相は続投

この記事の要約

英国の下院は15日、政府がEUと合意したEU離脱案の採決を行ったが、賛成202、反対432の大差で否決した。これを受けて最大野党・労働党が提出した内閣不信任案は否決され、メイ首相の続投が決まったものの、議会の承認を得るメ […]

英国の下院は15日、政府がEUと合意したEU離脱案の採決を行ったが、賛成202、反対432の大差で否決した。これを受けて最大野党・労働党が提出した内閣不信任案は否決され、メイ首相の続投が決まったものの、議会の承認を得るメドは立っておらず、3月29日の離脱期限が迫る中、EU離脱の先行きがさらに混沌としてきた。

英メイ首相は当初、採決を12月11日に実施する予定だったが、議会の強硬離脱派、離脱反対派の双方が離脱案に反発し、承認を得られないことが確実となったため延期を迫られた経緯がある。しかし、反対派の切り崩しはならず、与党・保守党からも100人以上が反対票を投じ、政府提出法案としては近代の英議会史上で最大の票差で否決された。

EUと英国は1年半に及ぶ交渉の末、英国の離脱条件を定めた離脱協定案について11月に合意。EU側と英国議会の批准を経て発効することになった。

合意した離脱協定案は、英国の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理問題について、EUを離脱した直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため、2020年12月末まで設けられる「移行期間」中に最終的な解決策で合意できない場合に、一時的な「バックストップ(安全策)」として、期限付きで英国が関税同盟にとどまり、関税ゼロなど現在と同様の通商関係を維持することが盛り込まれている。

このバックストップについて、英国の強硬離脱派は、最終的な解決策を見つけるのは極めて難しいため、バックストップ措置が恒久化され、英国が事実上、関税同盟に残留する可能性があり、EUのルールに縛られるとして猛反発。これが大きな障害となり、議会承認を取り付けることができなかった。

労働党は否決直後に内閣不信任案を提出。16日の19時に実施された採決では、離脱協定案に反対した保守党議員や、閣外協力している北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)の10人が、内閣辞職による総選挙を避けるため政権支持に回り、賛成306、反対325で不信任案が否決された。

メイ首相は21日までに離脱案の代替案を提示する予定。全党と協議し、反対派も受け入れ可能な案をまとめる方針だ。難航した協議の末にEUと合意した離脱案が「唯一の可能な合意」としていただけに、大きな修正は難しいが、細かい修正では議会の承認を取り付けることができない。一方、大幅に修正しても、EUが再交渉に応じない構えで、EUと英議会の双方が受け入れる案をまとめるのは至難の業だ。

離脱協定案に盛り込まれた移行期間設定は、協定が批准しないと実現しない。英議会が承認しないままだと、協定を批准しないまま離脱する「合意なき離脱」に至り、離脱日の3月29日直後に通商などが大混乱する。EU、英国はともに「合意なき離脱」をなんとしても避けたいところで、英議会で承認されるメドが立たない場合の対策として、離脱日を延期する案も急浮上してきた。メイ首相も16日、「合意に向けた明確な案があれば」EUが延期に応じるだろうと述べ、離脱日延期を視野に入れていることを示唆した。

英国内の離脱反対派は、混迷した状況を打開するには、EU離脱の是非を問う国民投票の再実施しかないとして、再投票を求めているが、メイ首相は「私は国民投票の直後に首相に就任した。投票結果に従うのが私の責務で、そうするつもりだ」として応じない姿勢を貫いている。