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2019/4/1

EU情報

英下院がEU離脱協定案を再度否決、メイ首相の「捨て身」戦術実らず

この記事の要約

英国議会の下院は3月29日、政府とEUが合意した離脱案のうち、離脱条件を定めた離脱協定案だけを切り離して採決したが、反対多数で否決された。離脱案の否決は3度目。メイ首相は可決と引きかえに辞任するという「捨て身」の戦術で反 […]

英国議会の下院は3月29日、政府とEUが合意した離脱案のうち、離脱条件を定めた離脱協定案だけを切り離して採決したが、反対多数で否決された。離脱案の否決は3度目。メイ首相は可決と引きかえに辞任するという「捨て身」の戦術で反対派の切り崩しを図ったが、空振りに終わった。英政府は新たな離脱期限となっている4月12日までに今後の方針を示すことを求められるが、打開策がなければ「合意なき離脱」に至るため、長期の離脱延期をEUに要請することになりそうだ。

メイ首相は27日、EUと合意した離脱案に反対する下院の強硬離脱派の方針転換を促すため、3度目の採決で可決されれば辞任すると発表。自身の首と引きかえに下院の過半数の支持を得る手段に打って出た。

しかし、29日の採決では、与党・保守党で34人が造反したほか、閣外協力する英領北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)が反対に回り、賛成286、反対344で否決された。票差は1回目の採決の230、2回目の149から58まで縮まったものの、捨て身戦術は奏功しなかった。

今回の採決が離脱協定案に絞ったものとなったのは、先に3度目の採決を実施しようとした際、バーコウ下院議長が同じ内容の合意案を何度も採決にかけることは認めないとして拒否したためだ。このため、離脱後の英国とEUの関係の大枠を定める政治宣言を切り離し、離脱協定案だけを採決することに決めた。離脱合意案の批准には政治宣言の承認も必要だが、協定案だけでも可決されれば、3月21、22日に開かれたEU首脳会議での合意に基づき、離脱期限を4月12日から5月22日まで延期できるという時間稼ぎの意味もあった。

離脱協定案の否決を受けて、EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)は同日、4月10日にEU臨時首脳会議を開催し、対応を協議すると発表した。英政府は首脳会議までに今後の方針を示す必要がある。「合意なき離脱」に踏み切るか、新たな方針に転換するための時間を稼ぐため、離脱期限の延長を要請することが想定される。

離脱の行く末を大きく左右する可能性があるのは、1日に下院で行われる「インディカティブ(示唆的)投票」。下院が25日に超党派議員の提案を承認して決めたものだ。政府とEUが合意した離脱協定案に代わる選択肢を探るのが目的で、複数の案を提示した上で、各議員に支持する案を選ばせる。

27日に行われた1回目の投票では、合意なき離脱、離脱撤回、EU関税同盟への残留、EU離脱の是非を問う国民投票の再実施など8つの選択肢が提示されたが、過半数を得た案はなかった。このため、選択肢を絞り込み、1日に再び投票を実施することになった。

1回目の投票で人気が高かったのは、野党・労働党の議員が提案した国民投票再実施。268票が集まった。保守党の親EU派議員が提案した関税同盟残留も、離脱協定案の承認で大きな障害となっている英国領の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境問題が一気に解決することから、労働党が賛成に回って264票を獲得し、反対票の272票に迫った。関税同盟残留のほか、EU単一市場残留など離脱後もEUと緊密な関係を維持するソフトブレグジット(穏健離脱)」路線の案も支持が多く、逆に合意なき離脱は160票にとどまった。

投票結果に法的拘束力はないが、1日の投票で穏健離脱路線の選択肢が過半数の票を集めれば、メイ首相が受け入れざるを得ず、首脳会議で新方針として提案し、EUに離脱期限の長期的な延期と、離脱協定の再交渉を要請する可能性がある。

ただ、情勢は流動的で、メイ首相が事態打開のため解散総選挙に踏み切るという観測も浮上している。合意なき離脱の可能性も消え失せていない。

また、メイ首相が総選挙をちらつかせることで、保守党の強硬離脱派とDUPに揺さぶりをかけ、離脱案をめぐる4度目の採決で可決に持ち込むという見方も出ている。