欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/10/7

EU情報

英政府がEUに新離脱案を提示、合意なき離脱回避へ妥協求める

この記事の要約

これが「最終提案」とし、EU側が応じなければ10月末に合意がないまま離脱すると述べた。

ジョンソン首相は10月17、18日のEU首脳会議で同提案を受け入れさせ、修正した離脱協定案を英議会が承認し、10月31日に秩序ある形で離脱することを目指す。

英国では10月19日までに英議会が離脱協定案を承認し、円滑な形で離脱することが決まらなければ離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案が成立済み。

英政府は2日、EUに離脱の条件に関する新提案を提示した。アイルランドと北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」の代替案を初めて正式に示し、EUに妥協を求めているが、EU側は問題があると指摘しており、合意に至るか不透明な情勢だ。

英国のEU離脱をめぐって最大の懸案となっているのが、EU加盟国アイルランドと英領北アイルランドの国境問題。双方は人やモノの流れを制限しないようにするため、厳しい国境管理を避けることで合意したものの、それをどのような形で実現するかは決まっていない。

このため、2018年11月に合意した離脱協定案には、「移行期間」中に解決できない場合はバックストップとして、期限付きで英国が関税同盟にとどまり、関税ゼロなど現在と同様の通商関係を維持することが盛り込まれた。移行期間はEU離脱した直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため設けるもので、原則的に2020年12月末まで適用される。

これに関して英議会は、バックストップによって英国が離脱後もEUのルールに縛られることに反発し、離脱協定案を3度にわたって否決。英国は離脱協定を批准できず、離脱期限が当初の19年3月末から10月31日に延期され、英メイ政権は退陣に追い込まれた。

7月に就任したジョンソン首相は、協定案からバックストップを削除するよう要求。これにEUが応じなければ、EUとの取り決めがないまま10月31日に離脱する「合意なき離脱」も辞さないとする強硬な方針を掲げている。これに対してEUは、受け入れ可能なバックストップの代替案を示すよう英政府に求めていた。

正式に提示した代替案は、北アイルランドが工業製品、農産品、食品については離脱後もEUのルールに従うことで、アイルランドと税関検査なしで取引できるようにするという内容。税関での検査は、北アイルランドとアイルランドの国境から遠く離れた地点で行い、しかも「申告制」を導入するなどして、手続きを簡素化する。北アイルランドを含む英国全体は移行期間終了後に関税同盟から離脱するが、北アイルランドとアイルランドの貿易は円滑に行えるようになる。

北アイルランドには同制度を受け入れるかどうかを決める権限が与えられ、自治政府と議会が移行期間終了までに可否を判断する。さらに、4年ごとに更新するか、同制度から抜けるかを決める。

バックストップをめぐっては、EU側が当初、北アイルランドだけを関税同盟にとどめることを提案したが、英国がアイルランドと本土の間に事実上の国境が引かれ、国家が分断されるとして反発し、当面は英国全体が関税同盟にとどまることが決まった経緯がある。ジョンソン首相が主導してまとめた新提案は、このEU案に近いもので、北アイルランドと英本土との間に“規制の国境”が生じることになる。

ジョンソン首相は2日、与党・労働党の党大会で、同提案を「建設的で合理的なものだ」と形容。EUへの歩み寄りを強調し、EU側も妥協するよう呼びかけた。これが「最終提案」とし、EU側が応じなければ10月末に合意がないまま離脱すると述べた。

ジョンソン首相は10月17、18日のEU首脳会議で同提案を受け入れさせ、修正した離脱協定案を英議会が承認し、10月31日に秩序ある形で離脱することを目指す。しかし、欧州委員会のユンケル委員長は同日、ジョンソン首相と電話会談した後に発表した声明で、新提案を「前向きな進展」として一定の評価をしながらも「いくつか問題点がある」と述べ、調整が必要との見解を示した。アイルランドのバラッカー首相もジョンソン首相との電話会談で、提案は精査するものの、バックストップの完全な代替案とはいえないとして難色を示した。

英国内では北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)が同提案を支持しているが、北アイルランドと英本土が規制で分断されることに対する批判が多く、最大野党・労働党のコービン党首は「(前首相の)メイ氏が(EUと)合意した案より悪い」とこき下ろした。保守党は下院で過半数を割り込んでおり、仮にEUと合意したとしても議会の承認を取り付けられない可能性がある。

英国では10月19日までに英議会が離脱協定案を承認し、円滑な形で離脱することが決まらなければ離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案が成立済み。これについてジョンソン首相は、「延期要請より死ぬ方がましだ」として、EUと合意できない場合も延期は要請しないとする姿勢を堅持していた。

しかし、英政府がスコットランドの裁判所に提出した文書で、19日までにEUと合意できなければ、離脱延期を要請する方針を示したことが4日に分かった。

ただ、ジョンソン首相は同日もツイッターで、新たな案で合意するか、合意しないかのどちらかだとした上で「延期はない」と述べ、強硬姿勢を維持した。このため、英メディアでは、合意に至らなかった場合は首相が他のEU加盟国の首脳に働きかけ、延期要請に拒否権を発動させるという見方も出ている。