欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2020/12/7

EU情報

EUと英のFTA交渉、大詰めの協議続く

この記事の要約

欧州委員会のフォンデアライエン委員長と英国のジョンソン首相は5日、EUと同国の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が暗礁に乗り上げていることについて、電話で協議した。主要な問題で大きな溝があることを確認しながらも、交渉 […]

欧州委員会のフォンデアライエン委員長と英国のジョンソン首相は5日、EUと同国の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が暗礁に乗り上げていることについて、電話で協議した。主要な問題で大きな溝があることを確認しながらも、交渉を再開することで一致。6日に双方の首席交渉官による協議が再開された。両首脳は同交渉の結果を受けて、7日中に再び協議し、今後の対応について話し合う。不調に終われば、交渉継続を断念し、合意がないまま新たな関係に突入するという最悪の事態が現実化しそうだ。

両首脳は1時間にわたる電話協議を終えてから発表した共同声明で、交渉が「多くの分野で進展した」としながらも、公平な競争環境の確保、漁業権、紛争解決の仕組みの3つの問題で「大きな相違がある」と指摘。双方の首席交渉官に対して、6日にブリュッセルで再協議し、打開の道を探るよう指示したことを明らかにした。

英国は1月末にEUを離脱したが、12月31日までは「移行期間」となるため、貿易など双方の関係はほとんど変わらない。移行期間中にFTAを締結しなければ、1月から関税、国境での通関手続きが復活し、双方の経済に悪影響が出る。

EUと英国は移行期間終了後も関税ゼロでの貿易の継続を目指すことで一致しており、3月から交渉を進めてきた。しかし、EU側が関税ゼロには公平な競争環境の確保が不可欠として、英国が今後もEUの競争法などに従うことを要求しているのに対して、英国は国家の主権が侵害されるとして反発。このほか、英国がEUの共通漁業政策から離脱するため、自国水域でのEU漁船の漁業権を制限しようとしていることなども障害となり、10月とされていた交渉期限を過ぎても合意に至っていない。

合意がないまま移行期間が終了する場合の打撃は、貿易の約5割をEUに依存する英国の方が圧倒的に大きい。それでも、ジョンソン首相が国家主権の回復を唱え、強硬な姿勢を崩していない。EU側も大きく譲歩すると、加盟国の同意を得られず、さらに新たな離脱を招く恐れもあることから、歩み寄りの余地は小さい。

時間切れが迫る中、EUのバルニエ首席交渉官と英国のフロスト首席交渉官は4日まで1週間にわたってロンドンで集中協議を行い、主要3問題で着地点を見出そうとしたが、溝は埋まらなかった。両首席交渉官は協議を休止し、フォンデアライエン委員長とジョンソン首相に今後の対応を委ねることで一致。これを受けて両首脳が電話で協議したものの、決着はつかなかった。

主要3問題のうち、ここにきて特に大きな焦点となっているのが漁業権をめぐる綱引き。双方とも漁業が経済に占める割合は大きくないものの、将来の関係のシンボルとみなされるようになっており、激しい攻防戦が展開されている。

同問題ではEU側が歩み寄り、英国の排他的経済水域(EEZ)内でのEU漁船の漁獲高を最大18%減らすことに応じる方針を示している。これに対して英国側は、漁業権問題でも移行期間を設けて段階的にEU漁船の漁獲高を減らし、その後は毎年の交渉によって漁獲高を取り決めることを提案しているが、最終的に80%削減を要求しており、大きな隔たりがある。移行期間に関しても、英国は数年程度としているが、EUは10年を要求している。

EUでは英国水域内での漁獲量が多いフランスが、仮にEUが同問題で大きく譲歩し、FTAで合意したとしても、拒否権を発動する構えを示しているため、同国と英国の両方が受け入れ可能な解決策を見出さなければならず、合意のハードルは極めて高い。

公正な競争環境をめぐっては、EUのルールに縛られないでも、ほとんどの関税が撤廃される「カナダ方式」のFTAを目指す英国と、これを「いいとこ取り」として認めず、公平な競争環境を確保するため英国が今後もEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求するEUの主張が真っ向から対立する構図が続いている。

とくにEUは、英国が自国企業に補助金を垂れ流しするようになると、域内企業が競争で不利になると警戒しており、英国から不当な補助を行わないという「拘束力のある約束」を取り付けようとしている。これに応じて英国側は、国内企業に不当な公的補助が行われないよう監視する規制機関を創設することを提案しているが、EU側は条件として、英国が公的補助を含むEUのルールや離脱協定に違反した場合に経済制裁を発動できることや、不当な補助で被害を受けたEU企業が英国の裁判時に提訴できる制度を紛争解決の仕組みに盛り込むことを提案。主権にこだわる英国が抵抗している。

FTAなど将来の関係をめぐっては、ジョンソン首相がEUと締結した「離脱協定」の一部の条項を政府の判断で変更できるようにする国内法案の成立を目指していることも大きな問題となっている。英上院は国際協定違反という批判が内外で噴出していることを受けて、違反とされる条項を削除した法案を可決した。しかし、ジョンソン首相は強硬な姿勢を崩しておらず、下院に差し戻された法案を再修正し、問題の条項を復活させる方針で、7日に採決される。EUは可決された場合にFTA交渉を打ち切ると警告している。

同国内法案はEUとのFTA交渉が決裂した場合、英本土から北アイルランドに入る物品の関税ルールを英国の裁量で決めることが柱となっている。FTAで合意すれば、施行の必要性はなくなる。このため、フォンデアライエン委員長とジョンソン首相は、採決までの合意を目指し、双方の首席交渉官に交渉再開を指示し、6日に協議が再開された。

ロイター通信と英ガーディアン紙は、6日の協議では漁業権をめぐる問題で大きな進展があり、残る2分野での妥協が最後の障害になっていると報じたが、英政府筋は漁業での進展を否定しており、情報が錯綜している。

バルニエ首席交渉官とフロスト首席交渉官は合意を目指し、フォンデアライエン委員長とジョンソン首相が再協議する7日夜の直前まで交渉を続ける見込み。合意に至らない場合は、首脳協議で今後の対応を決める。時間的な制約で今回の交渉が最後になると目され、交渉打ち切りが決まる可能性がある。