経済の停滞から抜け出せないでいるハンガリーで、自動車関連メーカーの大型投資が相次いでいる。独自動車メーカーのアウディとオペルのほか、韓国タイヤ最大手のハンコックタイヤが既存拠点の強化を打ち出した。財政緊縮策に慎重なハンガリー政府にとって、歳入増をもたらすこれらのプロジェクトは大きな朗報となる。
\ \■独オペル、新型エンジン生産
\ \米自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)の独子会社オペルは21日、セント・ゴットハルド工場で新型エンジンを生産する計画を発表した。投資規模は5億ユーロで、2012年末までに生産を開始する。ハンガリー政府は来月、投資計画に対する支援の規模を決定する予定だ。
\今回のプロジェクトにより、同工場の年産能力は、現在の約25万基から2014年までに75万基に拡大する。また、近代的な製造設備を装備することで、需要の変化に柔軟に対応できるようになる。
\生産するのは、小型・中型ガソリンエンジンと中型ディーゼルエンジンの3種類だ。従来エンジンより小さい気筒容量で同水準の出力を確保し、二酸化炭素(CO2)排出量や燃費も大幅に低下する。欧州連合(EU)の排ガス基準「ユーロ6」をクリアできる水準という。新型エンジンは、鉄道を使ってオペルのドイツ、英国、ポーランド、スペイン工場に輸送され、小型車「コルサ」から中型セダン「インシグニア」まで幅広いラインアップに搭載される。
\セントゴットハルト工場は1990年の設立。ハンガリー西部に位置し、オーストリアの国境に近い。従業員数は現在600人で、新型エンジンの生産に向けて新たに約800人が雇用される見通し。
\オペルはハンガリー子会社設立以来、同国に総額5億ユーロを投じてきた。今回のプロジェクトで投資残高が倍増することになる。
\ \■独アウディ、9億ユーロを追加投資
\ \独フォルクスワーゲングループの高級車メーカーであるアウディは22日、ハンガリー北西部のジュールで9億ユーロ規模の追加投資を実施すると発表した。1,800人を新規雇用し、2013年から年間12万5,000台を生産する態勢を整える。これにより従業員総数は7,500人に拡大する。また、サプライヤーなどを含めた雇用効果は1万5,000人に及ぶとみられている。オルバン首相は、今回のプロジェクトに投資優遇措置を適用する方針を表明したが、規模等の詳細は明らかにしていない。
\ジュール工場は現在、エンジン生産のほか、3モデルの最終組立工程を手がけている。今回のプロジェクトで、車体製造を含む一貫生産体制に移行する。生産車種には、次世代「A3」が加わる見通し。
\シュタットラー社長は、ジュールが選ばれた理由として、(1)インフラが整っている(2)労働力の能力が高い上、柔軟性もある(3)賃金水準が比較的低い――ことを挙げた。(3)については、中国は賃金水準がさらに30%低いと指摘し、賃金だけが決定の理由ではないことを強調した。アウディのジュール工場に対する投資残高は、1993年の設立以来、38億9,000万ユーロに上っている。
\ \■ハンコックタイヤ、ハンガリー工場の生産拡大
\ \韓国のタイヤメーカー、ハンコックタイヤは、ラーチャルマーシュ(Racalmas)工場の生産能力を大幅に強化する。現在、2億3,000万ユーロを投じたプロジェクトが進行中で、2011年半ばに完了すると、年産能力が1,000万本に倍増する。中期的に、さらなる倍増を計画している。
\ハンガリー中部のフェイェール県にあるラーチャルマーシュ工場は2007年に操業を開始した。ハンコックタイヤ欧州子会社のチョイ・ジヌク最高執行責任者(COO)によると、欧州では大型トラック向けの需要が高く、生産が追いつかない状態という。また、年内にもドイツの高級自動車メーカーとの新規プロジェクトを発表する予定だ。
\なお、チョイ氏は独自動車部品大手コンチネンタルのタイヤ部門を同社が買収するという業界憶測について、新市場の開拓や新しい事業分野を確保するための買収は有意義であるが、今回はそのケースに当てはまらないと述べ、買収の可能性を否定した。
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