ロシア政府捜査委員会は1月29日、モスクワ郊外のドモジェドボ国際空港で24日に起きた自爆テロの実行犯が北カフカス出身の20歳の男性と判明したと発表した。ただ、事件の背後関係の解明に支障をきたす恐れがあるとして、この男性の名前や北カフカスのどの地域のイスラム過激派と関わりがあるかなど、詳細は明らかにしなかった。
\今回のテロでは外国人8人を含む35人が死亡。捜査当局は、国際空港の到着ロビーが狙われたことから、主に外国人をテロの標的にしていた可能性が強いとの見方を示した。メドベージェフ大統領が26日にダボスの世界経済フォーラムでロシアへの投資拡大を呼び掛ける演説をする矢先に起こった事件だけに、テロ勢力が外国人に「ロシアは危険な国」というイメージを与え、ロシア経済にダメージを与えようと企んだ可能性はある。
\モスクワでは、これまでも北カフカス地方のイスラム過激派によるとみられるテロが相次いでいる。昨年3月にはモスクワの地下鉄駅2カ所で爆弾が爆発し、市民40人が犠牲になったばかりだ。同地方がイスラム過激派の温床となった原因は、1994年末に当時のエリツィン大統領がロシアからの独立を求めるチェチェン共和国に軍隊を派遣したこと(第1次チェチェン紛争)にさかのぼる。1999年に始まった第2次チェチェン紛争では、当時のプーチン大統領が親露政権を樹立させることに成功したが、イスラム系の独立派はゲリラ化して周辺に散らばり、北カフカス地方全体が不安定化する要因になった。
\メドベージェフ大統領は北カフカス地方の経済開発と雇用創出を進める立場を表明しているものの、チェチェン共和国は予算の90%、同共和国に隣接するイングーシ共和国とダゲスタン共和国もそれぞれ同80%以上、65%を中央政府からの支援に頼っており、経済開発のめどは全く立っていない。さらに、同地方の昨年のテロ件数は前年から倍増。ロシア内務省によると、609件のテロで警察官242人、一般市民127人が殺害されたという。ロシア財務省は同地方向けの投資の70%を保証するとしているが、この状況で投資する企業は皆無だ。
\ロシア議会(下院)は28日、テロの危険度を青・黄色・赤の3段階に分類して防止策を講じるテロ対策修正法案を審議。政府も公共交通機関の安全確保のため新たな政府機関を創出する検討に入った。2014年には北カフカス地方に近いソチで冬季オリンピックが開催されることもあり、政府はテロ再発防止に全力を挙げる必要に迫られている。
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