2014/12/10

総合・マクロ

ロシアとトルコ、黒海パイプライン計画で正式合意

この記事の要約

サウス・ストリーム計画の中止を受けて、ロシアが新たなパイプライン・プロジェクトに乗り出す。ブルガリアの代わりにトルコに向けて黒海パイプラインを敷設し、南東欧地域を中心とする欧州への輸送路を確保する意向だ。資金調達やトルコ […]

サウス・ストリーム計画の中止を受けて、ロシアが新たなパイプライン・プロジェクトに乗り出す。ブルガリアの代わりにトルコに向けて黒海パイプラインを敷設し、南東欧地域を中心とする欧州への輸送路を確保する意向だ。資金調達やトルコ国内のパイプラインの取り扱いなど、根幹にかかわる事項は、今後の交渉で決定される。欧州へのガス輸送中継地としての地位を築きたいトルコ政府との駆け引きは、ロシアにとっても容易ではなさそうだ。

ロシアは8日、トルコと黒海パイプラインの敷設に関する趣意書を交わした。また、ガスプロムは同日、敷設工事を担当する新会社「ガスプロム・ルスカヤ」をサンクト・ペテルブルグに設立すると発表した。新パイプラインの年間輸送能力は630億立方メートルで、サウス・ストリームと同じ規模。トルコ国内のパイプラインの能力拡大も必要となる。ギリシャ国境近くにハブ拠点を設け、欧州へ供給する。

■アナリストはリスクを指摘

エネルギー市場アナリストらは新プロジェクトについて、採算性のリスクを指摘している。サウス・ストリームと同様、ウクライナを迂回して既存顧客である欧州へガスを輸送する「新ルート」を整備する内容で、完成しても売上高が伸びるわけではないからだ。欧州のガス消費量が頭打ちであることや、欧州が調達先の多様化を進めていることも、この懸念を裏打ちする。

ロシアは欧州との関係悪化を受けて、欧州に代わる取引先を模索し、中国やトルコとの提携強化を図っている。しかし、現状では中国やトルコの交渉力の方が強い。10年以上前から続けてきた中国へのガス供給交渉は、今年5月、中国の要求する値引きに応じる形で決着した。トルコに対しては、新パイプライン・プロジェクトが具体化する前の時点ですでに来年の調達価格を6%引き下げた。

対中国輸出に向けた先行投資でも、ガスプロムは大きな負担を強いられている。予定通り東シベリア産のガスを輸出するには、まず550億米ドルをかけてガス田を開発しなければならない。加えて、パイプライン2本の敷設で当てにしていた中国政府からの前払い金の支払いが受けられず、他の資金繰りが必要となった。

トルコはすでにロシアにとってドイツに続く2番目のガス顧客だ。資源需要が長期的に伸びる見通しで、同国との関係強化はロシアにとって妥当な戦略といえる。ただ、トルコはロシア以外にイランやアゼルバイジャン、アルジェリアから天然ガスを購入し、調達先の分散化に努めている。

そもそも、欧州への重要なガス輸送路であるウクライナとの政治的対立を背景に始まった南ルートの整備計画。ロシアは今回、サウス・ストリームの代わりにトルコを中継する方針に転換した形だ。しかし、手ごわい交渉相手であるトルコとの取引が順風満帆となるかどうか、またトルコの政治情勢の安定が続くかどうかなど、不安要素の存在は否めない。