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2025/3/6

東欧経済ニュース速報

自動化がカギの中東欧産業、R&D投資を増やし技術革新を

産業の自動化に向けた研究開発(R&D)投資は技術革新の基盤だが、中東欧地域の 研究開発費は国ごとのばらつきが大きく、断片的で不均一なイノベーション環境を もたらしている。 同地域の国々は戦略的な立地と欧州連合(EU)市場へのアクセス、競争力のある労 働コストを背景に外国直接投資(FDI)を積極的に誘致し、これまで数十年に渡り 製造立国としての地位を維持してきた。基幹産業は自動車、電子機器、機械だが、 自動化と技術革新が世界の製造業を劇的に変えていく今、その波に適応し優位性を 保てるかが問われている。地域全体のR&D投資と産業自動化の水準、部門別の業績 を比較することで、先頭集団と後続グループとの落差が浮き彫りになるとともに、 当該地域の製造業の未来像もみえてくる。 ■R&D費のGDP比最多はスロベニアの2.2% 中東欧地域のR&D投資を主な国ごとにみると、突出しているのはスロベニアで、 2022年は国内総生産(GDP)の2.2%をR&Dに割り当てた。これはEU平均の2.27%に 最も近い数字で、国内の高付加価値産業、特に医薬品や先進的な製造業の発展を促 した。 チェコとハンガリーもR&D活動は活発で、それぞれGDPの1.95%と1.61%を投資し ている。両国は政府のインセンティブと多国籍企業の進出が相まって、自動車工学 や人工知能(AI)の分野で研究クラスターを形成している。 地域最大の経済大国であるポーランドは中道的な姿勢を反映し、R&D投資はGDPの1. 4%にとどまる。ワルシャワには急成長中の技術拠点やイノベーションラボがある が、小規模な都市では同レベルの投資を誘致するのに苦労している。 一方、ブルガリアとルーマニアのR&D支投資はGDPの1%未満だ。すでに17年間EUに 加盟しているにもかかわらず、両国は限られた国家予算と頭脳流出に悩まされ続け ており、多くの科学者やエンジニアが国外に活躍の場を求めている。研究開発への 慢性的な投資不足により、国内企業は産業革新の競争で後れをとるリスクにさらさ れている。 ■自動化は国ごとにギャップが大きい 中東欧の自動車産業は自動化のポテンシャルを示す好例だ。国民1人当たりの自動 車生産数が世界一のスロバキアは、フォルクスワーゲン(VW)、起亜自動車、ステ ランティスなどの世界大手が完成車工場を構える。製造ライン用ロボットや統合物 流システム、予知保全技術などが一般的に導入されており、自動化の高い世界基準 を満たしている。 ポーランドは特に電子機器製造部門で自動化が進む。半導体、家電製品、電気自動 車(EV)用バッテリーを生産する工場ではインダストリー4.0(I4.0)の技術を導 入し、品質と効率を確保している。チェコも同様に精密工学とロボット工学に重点 を置き、産業基盤の自動化に成功している。 対照的にブルガリアとルーマニアでは遅れが目立つ。国際ロボット連盟の2023年の 報告によると、ルーマニアでは労働者1万人当たりの産業ロボット数が18台と、EU 平均の129台を大きく下回る。ブルガリアは同割合が30台とわずかにルーマニアを 上回るものの、投資資金の限界や時代遅れのインフラ、デジタル移行に取り残され ている労働者など、構造的な課題は共通している。両国に多い繊維や家具などの伝 統的な産業も、古いシステムへの新技術の統合がコスト面でネックになっており、 自動化が進んでいない。そのためこれらの産業は、自動化がより進んでいるアジア の競合にシェアを奪われる可能性がある。 ■基幹産業の自動車はR&Dと自動化で生き残り 自動車産業は依然として同地域の製造業の要であり、スロバキア、チェコ、ハンガ リーなどでは輸出の大きな割合を占めている。これらの国々では自動化とR&Dを生 産のエコシステムに上手く統合し、人件費が上昇しても競争力を維持できるモデル づくりを行っている。 EVへの投資も自動車部門に根本的な変革をもたらす。ポーランドは大手バッテリー メーカーを誘致し、EVサプライチェーンの中心的地位を確立した。これは単に先進 技術の統合というだけでなく、持続可能性の実現に向けた方向転換を意味してい る。 同国はほかにも家電や医療機器、ゲーム、IT製品などの分野でトップランナーの位 置にある。この成長に自動化が果たした役割は大きく、国内の工場は高い品質基準 を保ちつつ世界的な需要を満たすことに成功している。 ■人材確保、EU基金の活用、政策の一貫性が課題 このように成功例はあるものの、中東欧は製造業の卓越性を維持・追求するうえで 課題にも直面している。自動化にはロボット工学、ソフトウエア・エンジニアリン グ、データ分析のスキルを持つ人材が不可欠だが、研究開発費の少ない国ではこう した人材の深刻な不足に悩まされている。専門教育を受けた若い人材が西欧に移る ことも珍しくない。 国によってはインフラの老朽化も自動化技術の導入を阻む要因となっている。地域 間の格差是正を目的とするEUの構造基金はギャップ解消に役立っているものの、農 村部は依然として発展から取り残されている。EUの支援は有効だが、すべての国が 等しく活用できているわけではない。特にルーマニアとブルガリアは官僚的な非効 率性により補助金の無駄遣いが指摘されている。 また、中東欧は全体として産業政策に一貫性がないため、投資家にとり不確実性が 高い。ハンガリーやチェコなどR&Dや自動化に対する強力なインセンティブを持つ 国は多くの投資を呼び寄せるが、その他の国は苦戦を余儀なくされている。 ■課題克服を成長の機会に グローバルな生産エコシステムで確かな地歩を築くためには、これらの課題に正面 から取り組む必要がある。革新の遅れている国では政府がR&D事業を優先し、投資 を増やすことが急務だ。官民連携は資金ギャップを埋め、イノベーションを促進す るうえで重要な役割を果たす。 人材の再教育も、とくに産業の脱炭素化を進めている地域では極めて重要だ。自動 化されたハイテク製造業において必須のスキルを労働者が身につけるためには包括 的な教育・訓練プログラムが欠かせず、政官学の連携がカギを握る。地域の国々の 連携強化はロボット工学やAI開発などの分野で最適な実践方法やリソースの共有に 役立つ。 持続可能性に焦点を当てたグリーン製造技術も有望だ。同分野に投資することで地 域の製造業者はEUの気候目標に沿うことができ、環境意識の高い投資家を惹きつけ られるとともに、世界市場での競争で優位に立つことができる。 ■政治の意志が試される スロベニア、チェコ、ポーランドなどの地域先進国がR&Dとイノベーションの可能 性を体現する一方、後進国は発展の勢いに乗れずに取り残される危険が常にある。 イノベーションの推進と先端技術の採用、労働力の養成段階における格差に対処す ることは、競争が激化する世界市場で中東欧地域が繁栄するために極めて重要と なっており、政治主導の強力なイニシアチブが求められる。 同地域には幸い、製造拠点として存続するためのリソースや人材、戦略的な立ち位 置の優位性がある。これらの強みをどう効果的に活かし、包括的で持続可能な進歩 を実現するかに地域の未来はかかっている。 ※同記事は『Emerging Europe』の2024年12月9日付記事「Mind the automation gap:R&D in Central and Eastern Europe」を元に編集部で構成しました。