欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2010/3/3

経済産業情報

福音派教会のトップが飲酒運転、就任4カ月で退任へ

この記事の要約

キリスト教会には大きく分けて東方教会とローマカトリック、プロテスタントの3つの宗派があることは教会に縁のない人でも知っているだろう。そうしてまた、プロテスタントは16世紀にドイツ人マルティン・ルターがカトリック教会に異議 […]

キリスト教会には大きく分けて東方教会とローマカトリック、プロテスタントの3つの宗派があることは教会に縁のない人でも知っているだろう。そうしてまた、プロテスタントは16世紀にドイツ人マルティン・ルターがカトリック教会に異議を唱えたことがきっかけで成立したことも周知の事実と言ってよいだろう。

\

ところでこの「プロテスタント」という言葉であるが、もともとはルターの新しい教えを異端として容認しない皇帝に対しルター派の諸侯と都市が「抗議」したことに由来する。日本語では通常、「新教」と訳されるが、文字どおりの意味は「抗議する人」ということになる。

\

ここまで説明しておいて何なのだが、実はドイツではプロテスタントという言葉はあまり使われない。「プロテスタント発祥の国なのになぜ」という疑問を持たれるかもしれないが、信者にとってはもっとしっくりとくる表現があるのである。

\

それは「エヴァンゲリッシュ(evangelisch)」という言葉で、新約聖書の「福音書(Evangelium)」に由来する。いささか退屈かもしれないがもう少し説明させていただくと、福音書とは「神を信じれば救われる」という福音(良い知らせ)を説いたキリストの生涯と復活を描いた伝記であり、すべて神の言葉で書かれたものということになっている。ルターの教えは人は神の言葉・約束を信じることによってのみ救われるというものだから、信者は「福音書の教えに基づく」という意味の「エヴァンゲリッシュ」を好むのである。

\

この福音派は現在、ドイツ福音主義教会(EKD)という全国組織を持っている。22ある州教会の共同体で、カトリックのドイツ司教会議とともに信者に対する影響力は強い。

\

この組織のトップである常議員会議長が2月24日、引責辞任した。飲酒運転で警察の取り調べを受けたことが明らかになったためだ。

\

この人物はマルゴット・ケスマン牧師(51歳)という。女性初のEKD議長で、昨年10月に就任したばかりである。

\

ケスマン牧師は20日夜、公用車を自ら運転。赤信号を無視して通行したため、警察に停車と飲酒検査を命じられた。血中アルコール濃度は1.54パーミルだったというから、立てば少しふらつくほど酔っていたようだ。罰金刑を受けるほか、運年免許をはく奪される可能性があるという。

\

こうした情報を聞くと、だらしのない人間にみえるかもしれないが、実はかなりの熱血漢で、同性愛やコンドーム使用を認めないカトリック教会を強く批判している。最近もアフガニスタンに駐留する独国防軍の早期撤退を求め、大きな議論を呼んだばかりだ。

\

トップに立つ人間として脇が甘かったと言えばそれまでである。だが、退任の記者会見で「私は深く悔いる。だが、悔い改めても職務上必要な権威をもはや保つことはできない」と述べ、弁解を一切しなかったことは好感が持てる。今後は一介の牧師として生活していくとのことである。過ちを犯す人間という存在にとって大切なのは福音に従って生きることだというルターの教えの原点を身をもって示していくことになるのだろうか。

\