ドイツの雇用情勢が好調だ。10月の失業者数は294万5,000人となり、1992年以来18年ぶりの低水準を記録。完全雇用の実現も数十年ぶりに視野に入り出し、ドイツ経済の先行きは明るさを増してきた。ただ、こうした好材料の影に隠れた今後の問題点を指摘する声も専門家から出ている。
\フォンデア・ライエン連邦労働相は連邦雇用庁(BA)の正式発表に先立つ27日、10月の出業者数を公表した。300万人という心理的に重要な水準を下回ったことを受け、BAのヴァイゼ長官から「おいしい役」を奪い取った格好だ。労働相は記者会見で「ドイツは受注低迷の厳しい時期を他の国々よりもはるかにうまく乗り切った」と述べ、自負を示した。
\欧州連合(EU)統計局ユーロスタットが29日に発表した失業統計をみると、ドイツの9月の失業率(EU基準)は6.7%で、ユーロ圏平均の10.1%を大幅に下回った。オランダ、オーストリア、ルクセンブルクに次いで4番目に低い。雇用情勢の改善は今後も続く見通しで、エコノミストの間には2012年には失業者数が200万人を切るとの見方もある。
\完全雇用は1980年に実現したのが最後で、ドイツはそれ以降、高失業の時代へと突入した。BAの予想では完全雇用が再び実現するのは2020年ごろになる見通し。
\労働市場が金融・経済危機の大きな痛手を受けずに回復している背景には◇ドイツ企業が事業の国外移転や売却を含むリストラを長年にわたって進め、競争力を高めた◇シュレーダー政権(当時)が2003年に着手した構造改革が実を結んだ◇金融・経済危機の最中に労使が雇用を最優先し、操短制度をフルに活用した――などの事情がある。
\ \人材不足が深刻に
\ \こうした明るさにも関わらず先行きへの警戒感があるのは、1つには人材不足の深刻化が避けられないためだ。財界系シンクタンクIWドイツ経済研究所によると、技術者の不足数は今年夏の時点で3万6,800人に上った。人材獲得競争はその後、さらに激化しており、アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)の企業アンケート調査では「研究開発要員の不足が深刻だ」と回答した企業は全体の3分の2に達した。特にブランド力や知名度の低い中小企業でこの傾向が強い。
\国外企業がドイツで求人活動を積極的に行っているのに対し、ドイツ企業が国外でのリクルートをおざなりにしているという事情はこの問題を増幅させる。E&Yはドイツからの「頭脳流出」に警鐘を鳴らす。
\少子高齢化の急速な進展も人材不足に拍車をかけており、企業は対策を迫られる。
\経済紙『ハンデルスブラット』によると、BMWの旗艦モデル「7シリーズ」を生産するディンゴルフィング工場では従業員の平均年齢が現在の37歳から2017年には47歳へと上昇する。高齢社員が可能な限り長く働ける労働環境を整えることは緊急の課題で、同工場では2017年の現実を想定したモデルプロジェクトが始まっている。
\ \自動車業界にベア前倒しの動き
\ \労働市場が売り手市場と化すことで、人件費が高騰することも経済界の頭痛の種だ。賃金抑制を通して高めてきた産業立地競争力が再び低下する恐れがあるためで、財界人は労組に大幅ベア要求を見合わせるよう呼びかけている。
\だが、労組は好景気のパイの分配を強く求めており、鉄鋼業界では先ごろ3.6%の大幅賃上げが実現した。来年2月に労使交渉を開始する化学労組も照準を雇用維持から賃上げに移す意向を打ち出している。
\自動車業界では27日、部品大手のボッシュが来年4月に予定していた2.7%の賃上げを2カ月前の2月に前倒しすることを明らかにした。従業員のモチベーションを高めるほか、人材流出を防ぐ狙いがあるとみられる。すでにポルシェやアウディ、フォルクスワーゲン(VW)、ZFがこれに追随しており、今後、業界内に広く波及する可能性がある。
\