チュービンゲン大学のエーバーハルト・ズレンナー教授を中心とする研究チームが、人工網膜の精度を大幅に引き上げることに成功した。臨床試験で被験者として協力したフィンランド人男性は、リンゴやバナナ、ナイフ、フォークなどの物体を区別できただけでなく、文字も認識できたという。同人工網膜は早ければ2011年にも認可が下りる見通しだ。
\チュービンゲン大のチームが開発したシステムは光ダイオード(光電素子)1,500個を集積した人工視覚チップを網膜下に埋め込むもので、光を感じると外部から電力を供給して電流を増幅し、視神経細胞を刺激する。人工網膜の製造はズレンナー教授が共同設立したRetina Implant社が手がけた。
\今回の臨床プロジェクトでは3人の中途失明患者が被験者として協力した。なかでも大きな成果を達成したのは40歳代のフィンランド人男性ミーカ(Miikka)さん。ミーカさんは10代の時に網膜色素変性症にかかり、人工網膜を埋め込む前は光の方向が感じられるだけという程度にまで視力が低下していた。人工網膜を埋め込み4カ月の視力回復訓練を受けた後の視力検査では、未知の物体(「これは何ですか?」に対する答え)を正しく特定できたほか、時計の時間(短針・長針の位置)を正しく言い当てられた。また、個々のアルファベットを識別し、提示された文字から単語を作ることもできた。さらに、自分の名前の誤ったつづり(MIKA)を見せられた時、誤記に気付いたという。
\臨床試験で使用した人工網膜は長期使用を想定したものではないため、試験終了後に再び取り外された。チュービンゲン大のチームは今後、さらに25人以上の被験者で臨床試験を実施して品質改善や耐久性向上を図り、市販認可にこぎつけたい考えだ。
\研究成果は『Proceedings of the Royal Society B』で閲覧できる。
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