3月のバーデン・ヴュルテンベルク(BW)州議会選挙で大勝した環境政党・緑の党は4月27日、中道左派の社会民主党(SPD)との政権協定交渉を終了した。緑の党の州首相がドイツで初めて誕生することもあり、新政権がどのような経済政策をとるかは日本企業にも気になるところだが、政権協定を見る限り環境政策上の「危うい実験」はなく、経済界は安堵しているようだ。
\両党が合意した政権協議は「転換の始まり(Der Wechsel Beginnt)」と題されており、今後、それぞれの州党大会で承認される見通し。12日の州議会で首相に任命される緑の党のヴィンフリート・クレッチュマン氏は「BW州は再生可能エネルギーの模範州、経済とエコロジーが両立することを示す未来工房にならなければならない」と抱負を述べた。
\具体的な経済政策をみると、エネルギー分野では原発廃止の加速と再生可能エネルギーの促進強化を提示。国の政策を受け現在、稼働停止となっている州内の旧式2原発(ネッカースヴェストハイムⅠ、フィリップスブルクⅠ)については再稼働を認めない意向を示している。
\こられの政策は中道右派のメルケル連邦政権が福島原発事故を受けて打ち出した方針と基本的に同じ方向性を示しており、突出感はまったくない。裏返して言えば、エネルギー政策で議会政党が独自性を打ち出す余地は小さくなっていることを意味する。
\政権協定にはそれでも個々のレベルで新しいエネルギー政策が2点盛り込まれている。1つは高レベル放射性廃棄物の最終処分場、もう1つは風力発電に関してだ。
\高レベル放射性廃棄物は人間から隔絶した環境下で長期間、保管しなければならず、受け入れ地の確保は極めて難しい。ドイツではニーダーザクセン州のゴアレーベン岩塩鉱跡を利用する方向で政府が検討を進めている。
\ただ、同岩塩鉱跡に対しては最終処分場に適さないとの指摘があり、地質調査が始まってから30年以上が経った現在も建設実現のメドは立っていない。また、地元住民の反対運動が根強い一方で、やっかいな最終処分場をみずから引き受けても良いという州もなく、国政上の難問となっている。
\BW州の緑の党とSPDは今回の政権協定で、最終処分場の選定を一からやり直すよう要求する考えを打ち出した。同州内には最終処分場に適した地層があるとの指摘もあり、火中のクリを拾うことも辞さない姿勢を示したわけだ。
\風力発電はBW州内の電力生産に占める割合が現在0.7%にとどまる。背景には内陸にある同州が風力発電に向かず、同州の電力大手EnBWも建設に消極的な態度をとってきたという事情がある。
\新政権はこうした現状を改め、同比率を2020年までに10%へと高め原発廃止に伴う穴を部分的に相殺する考えだ。ただ、風力発電設備には景観を損なうなどの問題もあり緑の党も自治体レベルで反対運動を展開しているため、実現は容易でないと予想される。
\ \「州政府の血液はガソリン」
\ \産業政策では自動車の位置づけが注目を集めている。BW州はダイムラーやポルシェ、ボッシュなどが本社を置くドイツ最大の自動車産業立地であるためだ。業界の直接雇用規模は20万人に達し、国内全体の4分の1を占める。
\これに絡んで次期首相のクレッチュマン氏がメディアに対し「車は多いよりも少ない方がもちろん良い」「ポルシェの哲学はわが党のモビリティ構想に合致しない」と述べたことは自動車業界労使の批判を招いた。
\ただ、新政権も自動車産業の重要性は十分に認識しており、財務・経済相に就任予定のニルス・シュミート氏(SPDのBW州委員長)は「BW州のすべての政府の血液にはガソリンが入っている」と発言。また、電気自動車の促進や軽量車体分野のクラスター形成などに意欲を示した。
\公用車には電気自動車やハイブリッド車を積極導入する意向で、ダイムラーは首相の公用車に旗艦モデル「Sクラス」のハイブリッドカーを売り込むもよう。また、独自動車工業会(VDA)のヴィスマン会長はクレッチマン次期首相をフランクフルトモーターショーに招待し、ドイツ製車両と部品の環境性能をアピールする考えだ。
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