原発廃止の前倒しや再生可能エネルギーの拡充に向けた連邦政府の8法案が1日、連邦議会(下院)で可決された。各法案への対応には与党と野党で違いがあったものの、原発廃止を盛り込んだ改正原子力法案は左翼党を除く全政党の支持で可決。左翼党自体も原発廃止には異論がないため、脱原発が国民的な意思であることが確認された格好だ。今後は州の代表で構成される連邦参議院で審議される。一部の法案は同院の承認が必要で、内容が修正される可能性もある。
\8法案の中心をなすのは改正原子力法案で、国内17原発の稼働停止時期がすべて定められている。福島原発事故直後から稼働停止となっている老朽7原発(1980年以前に稼働開始)と09年から運転停止中クリュンメル原発は緊急時に備えて冷温停止状態で保持される1基を除いて再稼働されない。
\原発が2022年末までに全廃されると、ドイツは電力源の23%を失うことになる。この穴を埋めるのは主に再生可能エネルギーで、改正再可エネ促進法案(EEG)には発電に占める同エネルギーの割合を2020年までに現在の約17%から35%へと引き上げる目標が盛り込まれた。2030年には同50%、50年には80%の実現を目指している。
\再可エネでは特に洋上風力発電を重視しており、最初に建設される洋上風力発電パーク10カ所には政策金融機関のKfWを通した融資プログラムが適用される。融資総額は50億ユーロ。
\洋上風力発電の買い取り価格(助成金)は発電効率の悪い陸上の風力発電よりも高く設定される。これについては内陸の州から批判が出ており、連邦参議院は両院協議会を設置して修正を要求する可能性がある。改正EEG法案は連邦参議院の承認を必要としないものの、同院が両院協議会に持ち込むと法案の成立が遅れる。
\ドイツの原発はバイエルンやバーデン・ヴュルテンベルクなど南部の州に多い(グラフを参照)。このため原発の利用を止めるとバルト海など北部の洋上風力発電を高圧送電網で南部へと大量に送る必要がある。ただ、送電網の建設は住民の反対運動に直面し、計画が進まないケースが多い。また送電網の敷設計画はこれまで州当局が管轄してきた関係で、複数の州にまたがる敷設は行政上の手続きに時間がかかるという問題もある。
\政府はこれを踏まえて、送電網拡張迅速化法案(Nabeg)を作成。連邦議会を通過させた。これにより、送電網の認可権限は国の機関である連邦ネットワーク庁に一元化され、土地収用もしやすくなるため、送電網敷設は加速する見通しだ。法案には地域住民の反対を踏まえ、高圧送電線が敷設される自治体に1キロメートル当たり4万ユーロの補償金を支給するほか、110キロボルト以下の送電線はコスト的に無理がなければ地下に設置するルールも盛り込まれた。
\ \家屋改築は税控除が争点に
\ \エネルギー政策の転換には省エネの推進も含まれており、政府は暖房効率の向上に向けた家屋改築への支援プログラムを拡大。KfWを通して行う融資と補助金支給の総額を今年の9億3,600万ユーロから来年以降は15億ユーロに引き上げる法案を連邦議会で可決させた。また1994年までに建設された住宅については、改築費用の10%を毎年、税控除できるようにする考えだ。控除期間は10年に上る。
\税控除に伴い税収は年15億ユーロ減少する見通しで、政府はそのうち9億ユーロを州と市町村に負担させることを法案に盛り込んだ。州サイドはこれを強く批判している。この改正には連邦参議院の承認が必要なため、法案は修正される公算が高い。
\原子力利用の縮小・廃止に伴い電力価格は上昇するため、鉄鋼や化学、セメントなどエネルギー集約型の企業は大きな打撃を受ける。政府はそうした負担を2013年から年5億ユーロ軽減する考え。排出権の競売入札で得られた収入を財源に充てる。ただ、この政策は不当な補助金を禁止した欧州連合(EU)競争法に違反しているとの指摘もあり、先行きは不透明だ。
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