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2011/7/13

総合 - ドイツ経済ニュース

中期財政計画、歳出抑制が鮮明に

この記事の要約

連邦政府は6日の閣議で、2012年度予算案と2015年までの中期財政計画を承認した。景気回復を背景に税収が大幅に拡大する一方で、財政健全化に向けて歳出の伸びを抑制したのが特徴。閣議では市民の税・社会保障費負担を2013年 […]

連邦政府は6日の閣議で、2012年度予算案と2015年までの中期財政計画を承認した。景気回復を背景に税収が大幅に拡大する一方で、財政健全化に向けて歳出の伸びを抑制したのが特徴。閣議では市民の税・社会保障費負担を2013年から軽減するとした与党合意を考慮することも了承されたものの、ヴォルフガング・ショイブレ財務相(キリスト教民主同盟=CDU=)は「余地は小さい」と述べ、減税を強く求める連立与党の自由民主党(FDP)をけん制した。

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ドイツの税収は増加傾向にあり、政府は連邦の税収が2011年の2,292億ユーロから2015年には2,757億ユーロへと拡大すると予想している(グラフ参照)。成長率は年4.7%に上る。一方、この間の歳出の伸びは同0.74%と低く、政府が緊縮路線を打ち出していることが分かる。

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背景には新規債務の対国内総生産(GDP)比率を2016年以降、最大0.35%に制限するルール(Schuldenbremse)が憲法(基本法)に新たに盛り込まれたことがある。同年までに構造赤字を段階的に圧縮していかないと憲法違反に陥るため、政府は歳出抑制に取り組んでいる。

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財政赤字の削減は好景気が追い風となり順調に進む見通しで、2011年の国債発行額は300億ユーロ未満となり従来計画に比べ約130億ユーロ、今年3月の政府予測に比べても約40億ユーロ低下。2012年も従来計画と3月予測を共に下回る(グラフ参照)。

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ただ、2013年以降については、国債発行額を3月予測よりも引き上げた。財政危機に直面するユーロ加盟国向けの支援策と原発廃止の前倒しを受け、修正を余儀なくされた格好だ。

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国内総生産(GDP)に対する国と地方(正確には連邦と州、市町村、社会保険機関)の財政赤字の比率は昨年の3.3%から今年は2%未満へと大きく低下し、ユーロ加盟国に義務づけられた同3%の上限枠ルールを2年ぶりに遵守できる見通しとなった。欧州連合(EU)の欧州委員会はドイツの3%ルール達成期限を2013年と設定しており、2年前倒しの実現となる。

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累積債務の圧縮も重要な課題となっている。金融・経済危機対策で歳出が急拡大し、ドイツ全体の累積債務の対GDP比率が09年の73.5%から昨年は83.2%へと大きく膨らんだためだ。ユーロ加盟国は本来、同60%以下に抑えることを義務づけられており、政府は2015年までにまずは75.5%の実現を目指す。

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政府は2012年予算案で資産売却を引き続き推し進める方針も打ち出した。同年は総額51億ユーロの資産を放出する計画で、財務省は12日、東ドイツ地域の不動産を管理する国営企業TLGの民営化方針を発表した。TLGは住宅や小売店舗、オフィスビル、ホテル、老人ホームなどの資産を持ち、同省によると、保有する不動産の時価は17億6,000万ユーロに上る。政府はTGLの資産を住宅とそれ以外の不動産に分離したうえで来年初頭に公開入札を実施する予定だ。

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市民は減税を求めず

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市民の税・社会保障費負担軽減はFDPが政権発足前から強く要求している政策で、特に中・低所得層に照準を合わせている。与党3党は今月初旬の党首会談で負担軽減の規模や内容を今秋に決定することで合意した。

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ただ、税負担軽減については、野党のほか、税収減を懸念する州政府も反対しているため、実現は容易でない。また、エコノミストや財界、市民の理解も得られていない。自動車大手ダイムラーのツェッチェ社長は『ビルト・アム・ゾンターク』紙に対し、米国でも欧州でも財政赤字は景気回復の最大のリスク要因になっていると指摘。減税よりも財政赤字の削減を優先すべきだとの判断を示した。

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公共放送ARDの委託を受けて世論調査機関のInfratest-dimapが実施した市民アンケート調査でも、「新規債務を減らす方が減税よりも重要だ」との回答が70%を占め、「減税の方が重要だ」の24%を大きく上回った。市民が債務圧縮の優先を求める背景には、ギリシャなどのデフォルト危機が欧州経済とドイツをはじめとするユーロ加盟国の財政に暗い影を落としていることがある。

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