社員を解雇する権限を雇用主が特定の社員に委任することがある。多くの支社を抱えている場合や、単にそうした業務を経営者が煩わしく感じているなどのケースがあるが、被委任者を通した解雇には注意すべき点がある。ここでは最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が4月に下した判決(訴訟番号:6 AZR 727/09)に即してこの問題をお伝えする。
\裁判を起こしたのは清掃会社に勤務する清掃員で、労働契約には「(雇用主は)主任ないし支店長を通して解雇通告できる」と書かれていた。
\同清掃員は2008年8月25日、署名の欄に支店長の名前が書かれた解雇通知を受領した。その際、雇用主からの権限委任状が添付されていなかったため、受け入れを拒否。また、労働契約に書かれた解雇権の被委任者が具体的に誰を指すかを知らされていなかったとして解雇無効の確認を求める訴訟を起こした。
\連邦労裁はこの訴えを認め、解雇無効を言い渡した。判決理由で裁判官は、委任状を提示せずに被委任者が行った法律行為(ここでは解雇通告)の受け入れをすみやかに拒否した場合、法律行為は無効になるとした民法典(BGB)174条第1文の規定を指摘。原告はこの規定通りの行為をとったとまず確認した。
\そのうえで、権限の委任者(ここでは雇用主)が法律行為の受け手(ここでは解雇通告を受ける被用者)に委任の事実を通知した場合、受け手は法律行為の受け入れを拒否できないとした同条第2文の解釈を展開。第2文の趣旨は解雇権の被委任者が具体的に誰であるかを解雇通告される社員に明確に伝えることだとしたBAGの判例を挙げ、問題となっている労働契約ではそうした具体性が欠けるとの判断を示した。
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