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2012/5/9

総合 - ドイツ経済ニュース

EUの債務削減策に加盟2カ国の有権者が「ノー」

この記事の要約

6日に行われたギリシャの総選挙とフランス大統領選挙が欧州連合(EU)の今後に大きな影を落としている。債務危機の解決に向けたこれまでの取り組みに対し両国の有権者が明確に「ノー」の回答を突き付けたためだ。債務削減を通した成長 […]

6日に行われたギリシャの総選挙とフランス大統領選挙が欧州連合(EU)の今後に大きな影を落としている。債務危機の解決に向けたこれまでの取り組みに対し両国の有権者が明確に「ノー」の回答を突き付けたためだ。債務削減を通した成長戦略を主導してきた欧州委員会やドイツ政府は対応を迫られている。

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フランス大統領選挙ではEU加盟国に債務削減を義務づける政策の実現にドイツのメルケル首相と手を携えて取り組んできたサルコジ大統領が、それを正面から批判する社会党のオランド候補に敗れた。

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オランド次期大統領は単年度財政赤字を国内総生産(GDP)比0.5%以内に抑えることを義務づけた財政新条約の見直しと、経済成長・雇用拡大を優先する戦略を提唱している。過度の緊縮財政は重債務国の景気を一段と悪化させ、マイナス成長と債務拡大の負のスパイラルを招くとの認識に基づく。

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欧州統計局の予測によると、ギリシャの2013年のGDPは2008年を100とした場合、80.1まで減少。ポルトガル(同92.6)、イタリア(95.1)、アイルランド(95.3)、スペイン(95.3)も軒並み経済規模が縮小する。GDPのマイナス成長が続けば、債務額を圧縮しても債務の対GDP比率は下がらず、財政は健全化しない。

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オランド氏は重債務国の経済をプラス成長に導くには財政再建のテンポを大幅に緩めるとともに、成長促進策の実施が欠かせないと主張。債務圧縮一辺倒だったこれまでの政策の問題点を突いた。

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その反響は大きく、これまで債務圧縮論議の影に隠れていた成長促進戦略がにわかにEU外交のトップテーマとして浮上している。ドイツ政府は「経済成長は以前から危機対策の第2の柱だった」(報道官)などと主張しているが、後付けの印象はぬぐえない。

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オランド氏の要求を受けてEUが経済成長政策を打ち出すことはほぼ確実となった。ただ、その方向性は大きく分けて2つに分かれているようだ。

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オランド氏は財政出動に基づく景気のテコ入れ(大きな政府)を重視する。これに対し、メルケル首相や欧州委、欧州中央銀行(ECB)は労働市場改革や年金支給開始年齢の引き上げ、産業規制の緩和など構造改革(小さな政府)を要求。財政出動に基づく経済成長策は容認しない意向を明確に打ち出している。メルケル首相はドイツなど経済力の高いユーロ加盟国から財政悪化国に資金が一方的に流れる「トランスファー同盟」へと通貨同盟(ユーロ圏)が変質することにも警戒感を示す。

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財政新条約の仕切り直しについてもドイツ、欧州委、ECBは反対の姿勢を示している。メルケル首相は7日、「財政新条約は正しい」と述べ、条約変更に一切応じない考えを強調した。

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EUは23日に臨時首脳会談を開催し、財政再建と経済成長の両立に向けた新たな対策を協議する。

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ドイツとフランスはこれまで長い間、利害の対立を抱えながらもEUの政策を共同で主導してきた。メルケル首相とオランド次期大統領がそうした伝統を継承できるかに注目が集まっている。

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ギリシャは6月にもデフォルトの恐れ

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ギリシャの総選挙は昨年11月に成立したパパデモス政権がEUと国際通貨基金(IMF)の第2次金融支援を取り付けたことを受けて実施された。同支援は痛みを伴う財政再建策の実施を前提としており、選挙は同政権に対する信任投票の意味を持っていた。

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選挙の結果、最大与党・全ギリシャ社会主義運動党(PASOK)の議席数は160から41へと激減した。連立先の新民主主義党(ND)は第1党となったため選挙法の規定に基づき議席数が50上乗せされ91から108へと拡大したものの、与党は300議席中149議席しか獲得できず、過半数を失った。

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議席を伸ばしたのは緊縮財政の撤回を訴えた左翼と右翼政党で、同国では安定政権樹立のメドが立たなくなっている。大統領から7日に組閣要請を受けたNDのサマラス党首はその数時間後に「不可能」として断念。現在は第2党となった急進左派連合Syrizaのツィプラス党首が組閣交渉に当たっているが、実現の可能性は極めて低い。政権が樹立されなければ、3週間以内に再選挙が行われる。

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EUとIMFのギリシャ支援は同国が財政再建策を約束通りに実施することを前提としており、履行されない場合は融資が凍結される。その場合、ギリシャは国債を償還できなくなり無秩序なデフォルト(債務不履行)に陥るため、金融市場の混乱は避けられない見通しだ。

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野党のなかにはそうした事情を利用してEU、IMFと再交渉し、財政再建策の緩和を取り付ける計算もある。

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一方、EUにはそうした要求に譲歩する考えはない。財政赤字が膨らんだギリシャに再建の手綱を緩めるゆとりはないとみているためだ。ドイツ政府も「(EU、IMFとの間で行った)合意はギリシャにとって最良の道だ」(政府報道官)として、遵守を求めている。

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ギリシャに対するEUとIMFの次期融資は6月に予定されている。それまでに新政権が樹立されないと融資が見送られる恐れがあり、その場合はデフォルトとなるのが確実とみられる。

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エコノミストの間からはさらに、ギリシャのユーロ離脱を現実的な問題とする見方も出ている。シティグループのアナリストらは同国が今後12~18カ月でユーロから脱退する確率を50~75%と試算している。

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