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2012/5/16

ゲシェフトフューラーの豆知識

就業免除期間中の社用車返還要求で最高裁判決

この記事の要約

社員に社用車を貸与する場合は契約を結ぶ。そのなかには雇用主が社用車の返還を要求できるケースなどが記されている。では、そうした取り決めをしっかりしておけば雇用主は事情の如何に関わりなく、契約条項を根拠に返還を要求できるのだ […]

社員に社用車を貸与する場合は契約を結ぶ。そのなかには雇用主が社用車の返還を要求できるケースなどが記されている。では、そうした取り決めをしっかりしておけば雇用主は事情の如何に関わりなく、契約条項を根拠に返還を要求できるのだろうか。この問題に関する係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が3月に判決(訴訟番号:9 AZR 651/10)を下したのでここで取り上げてみる。

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裁判を起こしたのは人材派遣会社に勤務していた職員。社用車貸与契約には「被用者が業務目的で乗用車(社用車)を必要としない場合、雇用主は貸与を取り消すことができる。これは特に、被用者が雇用関係の解除通告後に就業を免除された場合に当てはまる。雇用主が貸与の取り消し権を行使した際に、被用者は社用車を利用できないことの補償や損害賠償を請求できない」と書かれていた。

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同職員が2009年6月末付で自主退社することを雇用主に申し出たところ、雇用主は6月2日付の文書で勤務免除を通告するとともに、社用車の返還を要求。同職員は6月9日に返還した。

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6月の給与明細を見たところ、社用車の貸与に伴う所得税がまるまる1カ月分(277ユーロ)差し引かれていた。同職員が実際に社用車を利用したのは8日間であり、残り22日分も税を支払うのは納得がいないと主張。雇用主を相手取って損害賠償請求訴訟を起こした。

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原告は1審で敗訴したものの、2審で勝訴。最終審のBAGも2審判決を支持した。判決理由で裁判官は、社用車の返還に関する労使契約の内容自体は適切だとしたうえで、契約当事者の一方による決定(ここでは社用車の返還命令)は「公正な裁量に従って(nach billigem Ermessen)」下された場合にのみ拘束力を持つとした民法典315条3項の規定を指摘。原告は09年6月に社用車を8日しか利用できなかったにもかかわらず所得税法の規定により277ユーロを支払わねばならず、手取り収入が減少したとして、その事情を配慮しなかった被告に対し損害賠償203.13ユーロの支払いを命じた。

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また、原告に貸与していた社用車は営業活動で必要だったとした被告の主張についても、裁判官は具体性に欠けると指摘。貸与されていた社用車以外に乗用車を持っていなかった原告が09年6月末まで社用車を利用する権利は雇用主の返還命令に優越するとの判断を示した。

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