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2012/5/30

総合 - ドイツ経済ニュース

「安価な労働力」の時代に幕

この記事の要約

ドイツの派遣労働業界が大きな転換期を迎えている。国内最大の産業別労組であるIGメタルは22日、金属・電機産業で働く派遣社員を対象とした賃金協定を派遣業界団体BAP、IGZとの間で締結。正社員と派遣社員の格差是正に向けた取 […]

ドイツの派遣労働業界が大きな転換期を迎えている。国内最大の産業別労組であるIGメタルは22日、金属・電機産業で働く派遣社員を対象とした賃金協定を派遣業界団体BAP、IGZとの間で締結。正社員と派遣社員の格差是正に向けた取り決めで、フォンデア・ライエン労働相から称賛を受けた。25日には、教会系派遣労組の統一組織CGZPが過去に締結した労使協定に基づく低水準の賃金支払いをすべて無効とする最高裁判決が下っており、派遣社員を安価な労働力として利用する時代は終わりを迎えつつあるようだ。

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IGメタルがBAPなどと締結した賃金協定は、派遣社員の時給に手当を上乗せするという内容。同手当は勤続期間が長いほど額が増える仕組みで、派遣先での勤務期間が6週間を超えた場合は時給の15%相当額が上乗せされる。同3カ月超では上乗せ比率が20%、5カ月超では30%、7カ月超では45%、9か月超では50%へと引き上げられる。

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これにより、現在8.19ユーロにとどまる未熟練派遣社員の時給は採用から9カ月後には12.29ユーロに上昇。大卒エンジニアの派遣社員では同18.75ユーロから28.13ユーロへと上がる。月収ベースの増収幅は未熟練で最大621ユーロ、大卒エンジニアでは同1,380ユーロとなり、正社員との格差は大幅に縮まる。

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手当は派遣先企業が負担する。金属・電機産業で働く派遣社員は24万人に上っており、『ハンデルスブラット』紙の試算によると、企業負担総額は年15億ユーロに上る見通しだ。

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協定は11月1日付で発効、2017年12月末まで拘束力を持つ。金属雇用者団体に属さない企業で働く派遣社員にも適用される。

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賃金格差是正を労相も要求

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ドイツでは派遣労働に対する規制が1980年代から徐々に緩和されてきた。特に大きな転換点となったのはシュレーダー政権が構造改革の一環で2003年1月に導入した、派遣期間の上限撤廃措置だ。これにより派遣労働者の数が急増。02年の30万人強から11年には90万人へと膨らんだ。

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雇用情勢を改善するという改革の目標は達成された。だが、正社員との賃金格差が大きいほか、派遣労働法制の盲点を突いて被用者の待遇を引き下げる企業も出現するなど、近年は弊害も目立っている。2010年にはドラッグストア最大手のシュレッカーが正社員を解雇したうえで賃金の低い派遣社員として再雇用していたことが大きな社会問題となった。

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労組は派遣社員が増えすぎると、正社員の待遇悪化につながるとして警戒。派遣社員の採用比率の高いBMWでは従業員の代表機関である事業所委員会が派遣社員採用への同意を拒否したため、裁判に発展している。

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政府も派遣社員の待遇改善を重要課題とみており、所轄大臣のフォンデア・ライエン労働相は賃金格差の是正に向けて必要ならば法律を制定する意向を表明。これが産業界に対する大きな圧力となり、IGメタルと派遣業界団体の今回の協定につながった。

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同労相は金属・電機以外の業界にも今回のような協定が広がることを期待していると表明。今後の動向を見極めたうえで法制化に踏み切るかどうかを検討するとの立場を表明した。

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一方、派遣業界団体は、派遣先企業の人件費負担が増えるためこれといった技能を持たない失業者が派遣社員として採用されるチャンスは低下するとみている。

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派遣会社に賃金などの追加支払い命令

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教会系派遣労組の統一組織CGZPは設立当時の02年から派遣業界団体との間で労使協定を締結してきた。これに対しサービス労組のVerdiなどはCGZPに労使協定の締結権はないとして提訴。最高裁の連邦労働裁判所(BAG)は10年12月にVerdiなどの訴えを認める判決を下した。

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これを受け、CGZPが結んだ労使協定に基づく賃金支払いの無効確認を求める裁判を派遣社員や年金当局が多数起こし、今月22日のBAG判決で勝訴が確定。派遣会社は06~09年の4年間について派遣先業界の正社員の賃金と派遣社員の賃金の差額を派遣社員に支払うことを命じられた(06年以前については時効成立)。これに伴い雇用者の社会保障負担分についても追加支払いを義務づけられる。

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派遣会社が追加負担する給与と社会保険料が莫大な額になるのは確実で、多くの派遣会社が倒産に追いやられる恐れもある。

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