独与党3党は5日、今後の政策方針について合意した。医療機関の診察料廃止や自宅保育手当の導入、年金支給制度の一部改正が主な合意点。このほか、憲法(基本法)に定められた財政健全化目標を前倒しで達成することや、2013年の交通プロジェクト予算を上乗せすることも取り決めた。来年秋の連邦議会(下院)選挙を見据えて政策実行力をアピールする狙いだ。
\自宅保育手当(Betreuungsgeld)は子供を託児施設などに預けず自宅で育てる保護者に支給される。2013年8月までに需要に見合った託児定員を確保することを市町村に義務づけた子供支援法(KiFoeG)の規定を順守できないことが確実となっていることを踏まえた措置で、1~2歳児を持つ保護者を対象にまずは月100ユーロを支給。14年8月には同150ユーロに引き上げる。出生後15カ月目から受給できる。また、同手当を受給せず子供の学費貯蓄ないし自らの個人年金に転用する保護者には月15ユーロの特別手当が支給される。
\13年8月以降に定員不足で託児先を確保できない親はKiFoeGの規定に基づき、市町村に対し損害賠償を請求できる。このため政府与党は法案を成立させることでそうした親に手当を支給、訴訟リスクを回避する意向だ。
\政府は同手当の導入方針を6月の時点で決定していたが、与党内から強い批判が出たため、今回改めて与党合意を行った。保守色の強いキリスト教社会同盟(CSU)にとっては、育児は家庭で主婦が行うという伝統的な価値観を重視していることをアピールできるメリットがある。
\自宅保育手当に対しては野党や経済界からも批判が出ている。独雇用者団体連合会(BDA)のフント会長は、同手当が導入されると、学歴水準の低い保護者の子弟が託児施設での早期教育を通して知力を向上させるチャンスが失われると指摘。また、同手当は専業主婦の増加を促進する恐れがあり、少子高齢化の進展で労働力不足が今後、深刻化する事情を踏まえると好ましくないとの懸念を示した。
\野党の社会民主党(SPD)と緑の党は政権を奪回した場合は、同手当を廃止する意向だ。
\ \年金最低額引き上げ、保険料長期納付など条件に
\ \ドイツでは医療保険制度改革の一環で2004年に診察料(Praxisgebuehr)が導入された。患者は各四半期の最初の受診時に10ユーロを支払わなければならない。これに伴う医療機関の事務手続きが煩雑なうえ、公的健康保険の財政が急速に改善していることもあり、与党は来年1月から廃止する方針を決定した。野党は同方針については支持を表明しており、法改正案は9日にも連邦議会(下院)で可決される見通しだ。
\年金支給制度の改正は貧困な高齢者の増加を防ぐ目的で実施する。具体的には◇公的年金保険料の納付期間が計40年以上◇個人年金にも加入している――の2条件をともに満たしているにも関わらず、年金受給額が生活保護費を下回る受給者への支給額を上乗せ。生活保護費をやや上回る年金を支給する。財源はすべて税収で確保する意向だ。
\生活保護費は現在、全国平均で月688ユーロ。住居費の高い地域ではこれを上回り、フランクフルト近郊のヴィースバーデンでは811ユーロに上る。
\所轄大臣のフォンデアライエン労働相は当初、保険料納付期間の長い定額受給者への年金支給額を850ユーロに引き上げることを目指していたが、財源確保が難しいため、大幅に引き下げられた格好だ。
\ドイツの憲法では新規債務の対国内総生産(GDP)比率を2016年までに最大0.35%に制限することが義務づけられている。好景気を背景に税収が拡大していることから、与党は今回、同目標を13年に達成することで合意した。14年には景気と特殊要因を除いた実質ベースで基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡を実現するとしている。
\2013年の交通関連予算はこれまで約100億ユーロを予定していたが、与党は今回、7億5,000万ユーロ追加することを取り決めた。ドイツの産業立地条件を改善することが狙いで、増額分は主に道路や港湾に振り向けられる見通しだ。
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