ドイツの警察・税務当局は12日、国内金融最大手のドイツ銀行を対象に大規模な強制調査を実施した。二酸化炭素(CO2)の排出権取引に絡み脱税などの違法行為を行っていた疑いが持たれている。捜査線上には6月に就任したユルゲン・フィッチェン共同最高経営責任者(CEO)も含まれており、同行のイメージは著しく傷ついた格好だ。
\捜査はフランクフルト本社のほか、ベルリンとデュッセルドルフ支店などを対象に行われた。投入された警察職員などは計500人で、その様子はテレビなどで大々的に報じられた。
\捜査対象となっている行員は25人で、そのうち経理や法務を担当する5人は逮捕された。経営陣ではフィッチェンCEOとシュテファン・クラウゼ取締役(財務担当)に容疑がかけられている。
\捜査の発端となったのは2010年に発覚した排出権取引に絡む脱税事件だ。この事件では10年4月に国内230カ所で強制調査が実施され、ドイツ銀本社や排出権取引所を運営するミュンヘン取引所も含まれていた。捜査官の動員数は1,000人を超えた。
\脱税の手口は(1)ドイツにある幽霊会社Aが他の欧州連合(EU)加盟国の業者から排出権を非課税で買い取る(非課税となるのはEU域内で国境を越えて行われる取引には付加価値税がかからない決まりがあるため)(2)A社は買い取った排出権を19%の付加価値税込みでドイツ国内のB社(共犯であることが多い)に売却する(3)その際、A社は納税義務があるにもかかわらず付加価値税を納めず、企業の関係者は姿をくらます(4)B社は国内の別の取引業者Cに排出権を売却するとともに、A社との取引額に含まれていた付加価値税の還付を税務署に申告する――というもの。こうした手口を用いた犯罪にはおよそ150人が関与していた。
\ドイツ銀行がこのとき強制調査を受けたのは容疑者の多くが口座を持っていたうえ、行員7人が脱税を知りながらほう助していたためだ。
\当局はその後の捜査で、排出権取引に含まれる付加価値税の不正還付をドイツ銀行も行っていた可能性があると判断。また、それに関する情報を破棄した疑いもあるとして、脱税、証拠隠滅などの容疑で新たな捜査を進めていた。
\ドイツ銀は2010年第4四半期に行った09年度付加価値税申告で、排出権取引に伴い納付した同税(仕入れ税=Vorsteuer=)3億1,000万ユーロの還付を請求。申告内容を了承する署名は主要責任者であるクラウゼ取締役と、フィッチェン現CEO(当時:国際事業担当取締役)が行った。フィッチェン取締役が署名したのは他の役員がその時、誰も本社にいなかったためとされる。署名は財務担当取締役と別の取締役の計2人が行わなければならないという事情がある。
\同行はその後、同申告を撤回し、修正申告を行ったものの、捜査当局は違法な税還付を申請した疑いがあるとみて今回の強制調査に踏み切った。
\捜査当局は10年の捜査に際して、ドイツ銀行に事件解明への協力を要請。事件に関するメールなどの提出を要求した。同行は要求に応じたものの、少なからぬメールを消去していたため、当局は証拠隠滅の容疑でも強制捜査を実施した。
\ \ジャイン共同CEOにもLIOBR問題で容疑
\ \フィッチェンCEOは就任に際し、利益率偏重に陥った従来の経営のあり方を是正することを経営方針として打ち出した。メディアのインタビューでは「利益の追求と社会的な責任のバランスを保たなければならない」「合法的な事業がすべて正当とは限らない」などと発言し、高い評価を受けていた。
\ドイツ銀では、金融危機の際にリスク資産の価値を過大評価する粉飾決算を行っていた疑いが元行員の告発で浮上している。また、アンシュ・ジャイン共同CEOに対してはロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の操作問題で部下の違法行為を黙認してきた疑いが持たれている。CEOが2人とも捜査線上に置かれており、捜査の結果次第では経営陣の抜本的な入れ替えを余儀なくされそうだ。
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