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2014/8/6

総合 - ドイツ経済ニュース

独経済に不透明、対ロ制裁強化などで

この記事の要約

ドイツ経済に先行き不透明感が漂い始めている。内需の安定、欧州経済の回復、米国経済の加速といったプラス材料はあるものの、ウクライナ、パレスチナ問題の緊迫化など地政学上のリスクが高まっているためだ。欧州連合(EU)が対ロシア […]

ドイツ経済に先行き不透明感が漂い始めている。内需の安定、欧州経済の回復、米国経済の加速といったプラス材料はあるものの、ウクライナ、パレスチナ問題の緊迫化など地政学上のリスクが高まっているためだ。欧州連合(EU)が対ロシア制裁の強化に踏み切ったことは大きな追い打ちとなる見通しで、経済成長の下振れ懸念が出ている。

独経済は内需主導の経済成長が続いている。雇用の安定と賃金の上昇を受けて個人消費が持続的に拡大。欧州債務危機の影響で停滞していた企業の投資活動も昨年第2四半期にプラス成長に転じてからは景気の柱となっている。今年第1四半期は外需が大きな足かせとなったものの、国内総生産(GDP)成長率は前期比で実質0.8%に達した。

財政危機に陥った南欧などのユーロ加盟国も回復軌道に乗り始めている。ユニットレーバーコスト(生産一単位当たりに要する人件費)の低下や労働市場柔軟化の効果で競争力が高まってきたことが背景にあり、スペインの第2四半期GDP成長率は前期比で実質0.6%を記録。第1四半期の同0.4%を一段と上回った。ポルトガルは最大手銀行のバンコ・エスピリト・サント(BES)が経営に行き詰り、4日に中銀による救済措置を受けたものの、雇用情勢は改善しており、5月の失業率は前年同月比2.6ポイント減の14.3%まで低下した。国際通貨基金(IMF)によると、ギリシャも今年は0.5%ながらプラス成長に転じる見通しだ。

欧州経済の回復はドイツの輸出拡大につながる。IMFはユーロ圏の今年のGDP成長率が1.1%に達し、昨年(0.4%)の約3倍に拡大するとみている。

世界最大の経済規模を持つ米国の景気が加速していることも、独の輸出を後押しする。米商務省が7月30日発表した第2四半期の実質GDP成長率は年率換算で前期比4.0%を記録。前の期の同マイナス2.1%から急速に改善した。個人消費や企業投資などの内需がけん引車となっている。

「独機械の対ロ輸出減は日本メーカーにプラス」

だが、EUのロシア制裁はこうしたプラス効果を打ち消す恐れがある。国外事業を展開するドイツ企業の4社に1社はすでに、これまでの対ロ制裁の影響を受けており、売上高が計40億ユーロ失われたという。制裁の直接的な影響を受けない自動車業界もしわ寄せを強く受けている。ルーブル相場の下落などを受けてロシアの購買力が落ちているためで、独自動車工業会(VDA)のヴィスマン会長は1日、上半期の対ロ自動車輸出台数が前年同期比で12%減少したことを明らかにした。6月に限ると縮小幅は23%に達する。VDAはロシアの今年の乗用車国内販売台数が前年比9%減の250万台に落ち込むと予想している。

EUは制裁を1日付で大幅に強化。◇金融取引の制限◇新規の武器取引の禁止◇石油分野の技術供与の制限◇武器への転用可能な技術供与の制限――などに踏み切った。弁護士事務所レーデル・ウント・パートナーの関係者が『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に明らかにしたところによると、ドイツでは機械、化学メーカーが特に強い影響を受ける。武器への転用が可能な技術も制裁対象に含まれるため、防さび効果の高いバルブなども毒ガス兵器に使われる恐れがあるとして輸出禁止となる可能性が高い。

こうした製品の対ロ輸出はすでに当局が許可手続きを凍結している。今回の制裁強化に伴いその大部分は申請却下となる見通しという。ヘッセン・テューリンゲン州立銀行のアナリストは、ドイツ製機械の対ロ輸出の減少で日本製機械の輸出が増える可能性を指摘する。

ドイツの対ロ輸出高は昨年404億ユーロで、EU全体(886億ユーロ)の46%を占めた。このため同国はEU加盟国のなかで対ロ制裁の影響を最も強く受ける見通しで、仮に今年の輸出が20%減少すると、輸出額は80億ユーロ減少する。コメルツ銀行はこうした事態を踏まえ1日、今年の独GDP成長率を従来予測の2.0%から1.7%に下方修正した。