電機大手の独シーメンスは22日、タービン、コンプレッサー大手の米ドレッサー・ランドを買収することで合意したと発表した。買収資金の一部を白物家電合弁会社ボッシュ・シーメンス・ハウスゲレーテ(BSH)の持ち分売却でねん出。これにより、同社は消費者向け製品事業からの撤退をほぼ完了し、経営資源を産業向け事業に絞り込むことになる。競合の米ゼネラル・エレクトリック(GE)も白物家電事業をスウェーデンのエレクトロラックスに売却し、産業向け事業への集中を推し進める。
ドレッサー・ランドを1株当たり現金83ドルで買収する。これはシーメンスによる買収の観測が出る前日(7月16日)の終値を37.4%上回る水準で、買収総額は76億ドル(約58億ユーロ)に上る。ドレッサー・ランドの経営陣はシーメンスの買収提案を受け入れるよう株主に呼びかけている。
ドレッサー・ランドをめぐってはスイスの機械大手ズルザーが買収に向けて非独占的な交渉を進めていると17日に発表したばかりで、シーメンスは競り勝った格好だ。
ドレッサー・ランドにはズルザーの筆頭株主であるロシアの富豪ヴィクトル・ヴェクセリベルク氏が約5%出資している。シーメンスが同氏からドレッサー・ランド株を譲り受けることで合意したかは不明。
ドレッサー・ランドは石油・天然ガス採掘用タービン、コンプレッサーの有力企業で、従業員数は約8,100人、昨年の売上高は約30億ドル。シーメンスは製品・地域面で自社との補完性が高いほか、米国でシェールガス・オイルの採掘が活発になっていることから、今回の買収に踏み切った。2019年以降、年1億5,000万ユーロ以上のシナジー効果を見込む。
シーメンスは石油・天然ガス産業向け設備事業の売上高が50億ユーロ強。ドレッサー・ランドを買収すると約75億ユーロに拡大するものの、最大手GEの13億ユーロを大きく下回る。
今後はドレッサー・ランドの顧客向けに幅広い分野の自社製品を売り込み、GEの牙城である北米で事業を強化する意向だ。
BSHはボッシュの完全傘下に
BSHはシーメンスと自動車部品大手ボッシュの折半出資会社で、シーメンスは同持ち分50%をボッシュに譲渡する。ボッシュは白物家電事業の強化を目指しており、経営資源を産業向け分野に絞り込むシーメンスと利害が一致。成約に至った。買収手続きは当局の承認を経て来年上半期に終了する見通しという。
ボッシュはシーメンスが保有するBSHの持ち分を30億ユーロで取得する。クロージング前にBSHがボッシュとシーメンスにそれぞれ2億5,000万ユーロの配当を支払うため、取引金額は実質的に32億5,000万ユーロとなる。シーメンスは売却益を米タービン大手ドレッサー・ランドの買収に充てる意向だ。
BSHは1967年に折半出資で設立された両社の合弁で、世界市場シェアは8%、欧州市場シェアは25%に上る。シーメンスは持ち分50%をボッシュに売却する方向で交渉を進めてきた。
交渉ではBSHが「シーメンス」ブランドを今後も使用できるかが大きな焦点となっていた。アジアでは同ブランドの知名度が高く、使用できなくなるとBSHの販売台数が大きく落ち込む恐れがあるためだ。BSHは今回の合意で、「シーメンス」ブランドの長期使用を認められた。
ボッシュは景気変動の影響を受けやすい自動車関連事業の比重を引き下げる方針の一環で、ネットワーク化事業を強化しており、昨年秋にはスイスの重電大手ABB、米通信機器大手シスコなどと共同でスマートホームのオープンアーキテクチャを共同開発すると発表した。BSHの完全子会化この戦略に合致しており、同社は経営のスピードアップ化につなげる意向だ。
BSHの売上高は昨年105億ユーロだった。同社はこれを2025年までに200億ユーロへと倍増させる目標を打ち出している。