ドイツ政府が介護政策の拡充に取り組んでいる。社会の高齢化の進展を受けて要介護者数が増加していくうえ、両親など家族を介護する被用者数も拡大していくためで、改正介護保険法案を10月第3週に連邦議会(下院)で可決。介護と職業の両立支援に向けた法案も閣議で了承した。ただ、社会福祉の強化に向けたこれらの取り組みに対しては、企業の負担増を懸念する経済界から批判が出ている。
ドイツの要介護者数は介護保険がスタートした1995年当時106万人だった。その後、増加し続けており、昨年は248万人を記録。2030年には350万人、60年には450万人以上に達する見通しだ。(下のグラフ参照)
改正介護保険法案はこうした事情などを踏まえて作成されたもので、介護士の増員、介護サービスの拡充、要介護者の家族負担軽減、介護保険基金の設立の4点を柱としている。来年1月に施行される。
これらの措置に伴い、給与支給額に応じて原則的に労使が折半する介護保険の保険料が2段階に分けて引き上げられる。まずは来年、保険料率が0.3ポイント増の2.35%(子供がいない人は2.6%)に上昇。17年にはさらに0.2ポイント上乗せされ、2.55%(同2.8%)となる(下のグラフ参照)。これらの措置に伴いう介護保険料収入の増加幅は15年に36億ユーロ、17年には60億ユーロに達する見通しだ。
介護保険基金は75歳以上の後期高齢者の数が34年から急増することを踏まえ、将来の保険料負担が大幅に増えるのを防ぐ目的で来年、設立される。来年からの保険料率引き上げ分0.3ポイントのうち0.1ポイント(金額にして12億ユーロ)を同基金の資金として積み立てていく。
企業は勤務体制などで負担増に
介護と職業の両立支援に向けた法案は15日の閣議で了承された。家庭で介護を受ける人が増えていることや、家族が要介護者になった場合に入居先の施設を確保するのに時間がかかることに対応。介護休暇・時短を取得しやすくすることで介護離職を減らす狙いだ。政府は来年1月1日付の施行を目指している。
同法案は(1)家族・身内の介護で休みを取る被用者に最大10日間、介護休暇手当を支給する(2)介護に伴い休職する被用者が無利子の融資を受けられるようにする(3)介護を行う社員の勤務時間を、2年間を限度に週15時間まで短縮できるようにする――の3本柱からなる。
(1)は介護休暇に伴い失われた給与を補償するもので、給与(支給額ベース)の67%を公的介護保険が給付する。費用は来年1億ユーロを見込んでおり、すでに予算案に盛り込んだ。
(2)は介護休職で収入が途絶えることに対応した制度で、介護休職者の生活支援を目的としている。融資期間は最大6カ月。(3)でもルール利用者は無利子の融資を受けることができる。
法案で規定された「家族・身内」の範囲には義理の両親、非婚世帯の成員、義兄弟も含まれている。また、施設で生活する子供の両親および家族・近親者もこれらのルールを利用できる。さらに、末期患者の家族・身内を介護するために被用者は最大3カ月間、休職するか勤務時間を短縮するこができる。
同法案の施行に伴い企業の金銭的な負担が増えることはない。ただ、企業は被用者が介護休職・時短を申請した場合、臨時・派遣社員を投入するなどして対応しなければならなくなり、手間ひまが増えることになる。
介護保険料率の引き上げは財務負担の増加につながる。政府は15年については公的年金保険料率を0.2~0.3ポイント引き下げて対応する考えだが、7月1日付で公的年金法が改正された影響で年金財政は中期的に逼迫が予想されており、企業の社会保険料負担は近い将来、増加に転じる可能性が高い。
独商工会議所連合会(DIHK)は、介護・年金保険改革をはじめ現政権が社会福祉の強化にかじを切っていることを批判。20日には経済に有害な36の政策を具体的に指摘し、政府に再考を促した。