雇用主の故意ないし重過失が原因で被用者が勤務中にケガをした場合、労災保険機関はケガに起因した費用の支払いを雇用主に請求できる。これは第7社会法典(SGB7)110条1項に基づくルールである。では、ケガをしたのが派遣社員であってもこの原則は適用されるのだろうか。この問題をめぐる係争でコブレンツ高等裁判所が5月に判決(訴訟番号:2 U 574/12)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は労災機関が建設会社を相手取って起こしたもの。同社は軍宿舎の食堂建設を請け負い、派遣会社に社員2人を派遣するよう要請した。
これを受けて派遣された2人のうち1人が2002年11月21日午後、屋根上での作業中にバランスを失い5.5メートル下の地面に転落。地面はコンクリートで覆われており、転落した派遣社員は頭部と椎骨の損傷で半身不随となった。
労災機関はこれに伴って発生した費用の支払いを派遣先の建設会社に請求。同社が拒否したため提訴した。
1審のマインツ地方裁判所は原告勝訴を言い渡し、2審のコブレンツ高裁も1審判決を支持し、総額94万2,436.13ユーロの支払いを被告企業に命じた。判決理由で裁判官はまず、事故が起きた際に建設現場には転落事故防止用のネットが部分的にしか張られていなかったと指摘。これは重過失に当たるとの判断を示した。そのうえで、半身不随となった派遣社員は事故当時、被告企業の下で働いており、被告には自社の社員だけでなく、派遣社員に対しても安全を確保する義務があったと言い渡した。
最高裁への上告は認めなかった。