ドイツのアレクサンダー・ドブリント交通相(キリスト教社会同盟=CSU=)は10月30日、乗用車走行料金制度の導入に向けた法原案を発表した。7月に発表した構想に対して国外や野党のほか、与党内からも批判が出たことを受けて内容を一部修正。国外で登録されている車両に対してはアウトバーン(高速国道)を走行する場合に限り料金を徴収することにした。現在、政府内で法案作成に向けた調整作業が行われており、順調にいけば閣議決定と議会での決議を経て2016年から施行される見通しだ。
政府与党はCSUの強い要求を受けて乗用車に走行料金を課すことを政権協定で取り決めた。道路財源の不足を補うことが狙いだ。
ドブリント交通相は当初、乗用車高速料金を国外登録車からのみ徴収する方針だった。だが、周辺諸国からの批判や欧州連合(EU)法違反の懸念を踏まえ、7月に発表した構想では国内の車両にも課金する考えに転換。国外ドライバーへの差別が発生しないよう配慮した。
同構想ではまた、アウトバーンのほか、一般国道、州道、市町村道も課金対象としていた。これに対し、国境地域の都市などに周辺諸国から自動車で観光やショッピングに来る外国人が減少し地域経済に深刻な影響をもたらすとの批判が出たため、ドブリント交通相は今回の法原案で、国外車両の課金対象をアウトバーン走行に限定。これにより国外車両が一般国道などを利用して走行料金を払わずに入国できるよう配慮した。
国内で登録される車両はアウトバーンのほか、一般国道の走行も課金対象となる。これは、アウトバーンを利用しないドライバーが「アウトバーンを走行していないにも関わらず走行料金を課されるのは不当だ」として裁判を起こす事態を回避する狙いとみられる。
乗用車走行料金はヴィネット方式で徴収する。ヴィネットは料金前払いの道路利用券で、料金は排気量(100ccが課金単位)と排ガス性能(「ユーロ5」「ユーロ6」などと表記される欧州排ガス規制に基づく)および燃料の種類に基づいて課金される。例えばフォルクスワーゲン(VW)「ポロ・トレンドライン」のガソリン車の場合、年21.6ユーロが料金となる(詳細は下の表を参照)。
料金は年130ユーロを上限とする。また、国外車両については有効期間が10日ないし2カ月のヴィネットも販売する。料金はそれぞれ10ユーロ、22ユーロを予定している。
今回の制度改革に伴い国内の車両に現在、課されている自動車税は自動車税とインフラ税に分割され、インフラ税は走行料金扱いとなる。新しい自動車税とインフラ税の合計額は現行の自動車税額を越えないため、国内ドライバーの負担は増えないかやや低下する。
ヴィネットはシールから電子式に変更
走行料金を支払った車両にはこれまで、シール状のヴィネットを発行し、車両に貼り付けることを義務づける方針だった。だが、国内登録車の持ち主にヴィネットを送付すると事務手続きとコストが膨らむため、今回の法原案ではナンバープレートをヴィネット(電子ヴィネット)として利用する方式に改めた。料金納入済みの車両のナンバープレート情報をコンピューターで管理。光バリアや検査機でナンバープレートを照会し、料金未払いの場合は最大270ユーロの過料を科す。
電子ヴィネットに対しては自動車の移動状況が監視されたり、位置情報が記録され、捜査当局に利用されるとの批判が出ている。これに対しドブリント交通相は、料金支払いの有無を確認するために取得したデータは紹介直後に抹消されるため、捜査当局に利用されることはないと指摘。個人データ保護上の問題は生じないと強調している。
料金管理システムの運営事業者は法案成立後に公共入札を実施して決定する。トラック走行料金システムの運営事業者であるトル・コレクトなどが応札するとみられている。
同法原案の施行に伴う道路財源の増加幅は実質5億ユーロにとどまる。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、これで建設できるのは道路1車線50キロメートルに過ぎない。このため、乗用車走行料金の導入は道路インフラ事情の改善にほとんど貢献しないとの批判がある。