ドイツが昨年第2四半期に始まった景気低迷を脱する可能性が出てきた。地政学リスクやなどのマイナス要因は依然として解消されていないものの、石油安とユーロ安が大きな追い風となっているためで、企業景況感指数は2カ月連続で改善。2015年に業績拡大を見込む業界も多い。
ドイツ経済の見通しは昨年春まで極めて良好で、第1四半期の国内総生産(GDP)は前期比で実質0.8%拡大。Ifoなどの主要経済研究所は4月に発表した共同作成の春季経済予測で、14年のGDP成長率が前年の実質0.4%から同1.9%に拡大するとの見方を示した。雇用拡大、企業・消費者景況感の改善など景気指標が良好だったためで、内需主導の経済成長が加速すると予想していたのだ。
だが、現実はこのシナリオから大きく逸脱。第2四半期GDPは0.1%減とマイナス成長に陥り、第3四半期も0.1%の微成長にとどまった。
計算が外れた最大の理由はウクライナ・ロシア問題の影響を過小評価していたことにある。ドイツの輸出総額に占めるロシアの割合が3.3%(13年)と低いため、エコノミストは対ロ制裁を実施してもしわ寄せは小さいとみていた。
実際にはロシア向けの輸出が落ち込んだだけでなく、景況感が急速に悪化して企業が投資を抑制。建設投資は第2四半期に減少に転じ、設備投資も第3四半期に2.3%落ち込んだ。
このほか、◇新興諸国の経済成長が鈍化した◇ユーロ圏の景気回復が予想を下回った◇最低賃金や63歳年金など社会福祉拡充に向けた法案が成立した――も景気のマイナス要因となった。
経済の低迷を受けて企業の現状判断は悪化している。財界系シンクタンクのIWドイツ経済研究所が国内48業界団体を対象に実施した年末アンケート調査では、13年末~14年初頭に比べて業界の景況感が「改善した」と回答したのが7団体にとどまり、前回調査(13年末)の26団体から大幅に減少。「悪化した」は7団体から20団体へと増加した。
「ギリシャ問題は影響小」
ただ、15年は売上や利益など業績が「下向く」との回答は前回と同じ4団体にとどまった。上向くは前回の34団体から23団体に減少したものの、比較的高い水準を保っている。また、15年の投資拡大を見込む団体も前回(16)とほぼ同水準(15)となっている。
背景には北米の景気拡大、石油安、ユーロ安といったプラス材料がある。独商工会議所連合会(DIHK)の未公開レポートをもとに『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙が報じたところによると、米国向けの輸出額は今年5%増加する見通しだ。
原油価格はピークとなった昨年半ばから年末までにほぼ半減。北海産ブレントは1バレル(159リットル)当たり112ドルから60ドルに落ち込んだ。5日には53ドルを割り込んでおり、下げ止まる気配はない。
石油安は燃料コストの低下を意味するため、消費者と企業は他の分野に支出を回すゆとりが増加。経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)のクリストフ・シュミット委員長によると、独GDP成長率はその効果で今年、0.3~0.4ポイント押し上げられる見通しだ(5賢人委が11月に出した予測では15年のGDP成長率が1.0%)。
ユーロの対米ドル交換レートは5日、1ユーロ=1.1860ドルとなり、06年3月以来の低水準を記録した。米国が量的金融緩和を昨年10月で終了したのに対し、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和を拡大する見通しのため、ユーロ安はさらに進むとみられる。
こうした追い風を受けて低迷する企業投資が拡大に転じるかが独経済の今年の焦点となりそうだ。雇用が安定しているため、個人消費は堅調が予想される。
ギリシャの信用不安再燃懸念については影響が限定的との見方が強い。欧州債務危機がピークに達した12年当時と異なり、スペイン、ポルトガルなど財政悪化国の状況が改善しているうえ、「欧州安定メカニズム(ESM)」など金融安定網も構築されているためで、5賢人委のラールス・フェルト委員はFAZ紙に、経済的な危機がこれらの国に飛び火するリスクは小さいとの見方を示した。