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2015/5/13

ゲシェフトフューラーの豆知識

解雇一時金などで労組加入者を優遇するのは合法か

この記事の要約

企業が経営上の理由で人員削減を行う場合、労使は協議して「社会的計画(Sozialplan)」というリストラ計画を策定し、解雇される被用者の経済的なデメリットを緩和する。具体的には解雇一時金の額や、受け皿会社への移籍、受け […]

企業が経営上の理由で人員削減を行う場合、労使は協議して「社会的計画(Sozialplan)」というリストラ計画を策定し、解雇される被用者の経済的なデメリットを緩和する。具体的には解雇一時金の額や、受け皿会社への移籍、受け皿会社での給与などを取り決める。では、この取り決めと並行する形で労組が(解雇される)組合員だけを対象とした労使協定を雇用主と結ぶことは認められるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が4月に判決(訴訟番号:4 AZR 796/13)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は通信設備大手ノキア・シーメンス・ネットワークス(NSN、現ノキア・ネットワークス)のミュンヘン拠点に勤務していた元従業員がNSNと受け皿会社を相手取って起こしたもの。

NSNは2012年初頭にミュンヘン拠点の閉鎖方針を打ち出した。これを受けて従業員の代表機関である事業所委員会と金属労組IGメタルは経営陣と交渉を行い、同拠点を閉鎖するのでなく縮小することを取り決めた。

3者はさらに、拠点縮小に伴い解雇される従業員を対象とする社会的計画について交渉し、同年4月2日に合意が成立した。「移籍・社会的労使協定(TV)」と命名された同合意では◇解雇一時金を最大11万ユーロ支給する◇受け皿会社の給与水準はNSNで受け取っていた額の70%とする――が取り決められた。

IGメタルはTVとは別に、IGメタルの組合員のみを対象とする補完協定(ETV)を経営陣と締結した。その内容は12年3月23日時点で組合員であった解雇対象者について◇解雇一時金を1万ユーロ上乗せする◇受け皿会社の給与も10ポイント上乗せする――というものだった。

原告社員は12年7月になってIGメタルに加入。自身に対しETVを適用するよう要求したが、拒否されたため提訴した。

1、2審は原告の訴えを棄却。最終審のBAGも下級審判決を支持した。裁判官はその理由としてまず、3月23日をETVの適用期日としたことは妥当であり、同時点で組合員でなかった原告には同協定が適用されないとの判断を示した。

また、労組と雇用者は憲法と法律で保障された「自主的な労使協定締結権(Tarifautonomie)」に基づき、組合員のみを適用対象とする独自の協定を結ぶ余地を認められているとの見解も示した。

さらに、IGメタルに属さない者や原告のようにETVの適用を受けられなかった組合員であっても、個別交渉を通して自分に有利な取り決めを雇用主との間で行うことができたと指摘。組合員でなければ有利な条件を獲得できないということはないと言い渡した。

■■ ポイント ■■

人員削減で社会的計画を作成する際、労働組合はしばしば組合員に有利な協定の締結を雇用者サイドに要求する。組合費を払って加入している被用者に労組の存在意義をアピールできないと、加入者が減少してストの際に必要となる資金が不足。経営サイドとの力関係でも立場が弱くなるからである。

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