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2016/2/10

総合 - ドイツ経済ニュース

中国化工が農薬大手シンジェンタ買収へ

この記事の要約

農薬世界最大手のシンジェンタ(スイス)は3日、中国の大手化学メーカー中国化工集団(ケムチャイナ)から買収提案を受けたと発表した。買収提示額は最大430億ドル超で、中国資本による国外企業の買収では過去最高。シンジェンタの経 […]

農薬世界最大手のシンジェンタ(スイス)は3日、中国の大手化学メーカー中国化工集団(ケムチャイナ)から買収提案を受けたと発表した。買収提示額は最大430億ドル超で、中国資本による国外企業の買収では過去最高。シンジェンタの経営陣は株主の利益に合致しているとして、買収提案の受け入れを促した。

ケムチャイナはシンジェンタを1株当たり480スイスフランで買収する考えで、そのうち465フランを現金で支払う。また、シンジェンタは5月に開かれる自社の株主総会で通常配当11フランの支払いを約束している。年末までの買収手続き終了を見込む。シンジェンタのミシェル・ドマレ取締役会長は、ケムチャイナの農薬事業は規模が比較的小さいと指摘。独禁当局の承認を獲得できるとの見方を示した。本社はスイスにとどめる。

シンジェンタに対しては昨年、米競合モンサントが買収を提案したが、シンジェンタは買収提示額が低く同社の価値を著しく過小評価しているうえ、農業化学の大手2社の統合は各国当局から認可されない恐れも高いとして受け入れを拒否。モンサントは買収を断念した。

これに対しシンジェンタの株主の間からは、買収提案の受け入れをかたくなに拒否した経営陣への批判が噴出した。種子・農薬業界を取り巻く環境が悪化していることもあり、経営陣は今回、ケムチャイナの買収提案を受け入れた。ドマレ会長はケムチャイナの傘下に入ることで中国事業を大幅に拡大できるほか、技術革新に向けた長期の投資も可能になるとメリットを強調した。シンジェンタの中国売上高は現在4億ドル弱で、同社売上(134億ドル)の3%にとどまる。

農業化学市場では新興国通貨と農産物価格の下落を背景とする農家の資金力低下を受けて需要が減少している。状況改善の見通しは立っておらず、業界再編の機運が高まっている。米化学大手ダウ・ケミカルとデュポンは昨年12月、合併したうえで素材、特殊製品、農業化学の3分野に分社化することで合意しており、農業化学の新会社は売上高でモンサントやシンジェンタを抜いて最大手に浮上する見通しだ(グラフ参照)。

米当局の審査に注目

ケムチャイナは買収を積極活用して事業を拡大しており、昨年は伊タイヤ大手ピレリを獲得。今年1月には射出成型機械製造の独クラウス・マッファイを買収することを明らかにした。

ケムチャイナは国営企業で、シンジェンタ買収計画の背景には中国政府の意向がある。

中国は14億人もの人口を抱えており、食料の安定確保は最も重要な政策課題となっている。だが、同国の農業は労働集約型で生産性が低く、政府は近代化を推し進めたい考えだ。

ケムチャイナの任建新社長は記者会見で、「我々は世界の人口の22%を世界の農地の7%で賄わなければならない」と指摘。収穫量の高い種子と効率の良い農薬が必要不可欠であることを強調した。

シンジェンタを買収するためには株主のほか、各国当局の承認が必要となる。市場では特に、米国への直接投資(FDI)が国家安全保障に脅威とならないかを調べる対米外国投資委員会(CFIUS)の審査に関心が集まっている。

電機大手の蘭フィリップスは1月、CFIUSの強い懸念を受けて、照明子会社ルミレッズを中国系企業に売却する計画を断念した。ルミレッズは軍事への転用が可能な民生技術(デュアルユース技術)を手がけておらず、CFIUSの姿勢の背景にはルミレッズの競売入札で敗退した米国企業の働きかけがあったとみられている。ケムチャイナのシンジェンタ買収計画でも同様の事態となる懸念がある。