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2019/12/4

総合 - ドイツ経済ニュース

連立批判派が与党社民党の次期党首に

この記事の要約

エスケン/ヴァルターボルヤンス候補はともに、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との現連立政権を批判しており、SPDが政権から離脱する可能性がにわかに浮上してきた。

両共同候補は今回の決選投票でも勝利し、次期党首に選出されると目されていた。

この場合、メルケル政権は(1)少数派政権として存続する(2)SPD以外の政党と連立を組み過半数政権を新たに樹立する(3)解散総選挙――の選択を迫られることになる。

独与党・社会民主党(SPD)の党首を決める決選投票の結果が11月30日、発表され、サスキア・エスケン連邦議会(下院)議員とノルベルト・ヴァルターボルヤンス前ノルトライン・ヴェストファーレン州財務相の共同候補が、オーラフ・ショルツ連邦財務相とクララ・ガイヴィッツ前ブランデンブルク州議会議員の共同候補を破り、次期党首に選出された。今月6~8日の党大会で就任する。エスケン/ヴァルターボルヤンス候補はともに、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との現連立政権を批判しており、SPDが政権から離脱する可能性がにわかに浮上してきた。メルケル政権は少数派政権への転落や解散総選挙のリスクを抱え込んだ格好だ。

今回の党首選は、欧州議会選挙での大敗を受けてアンドレア・ナーレス党首(当時)が6月に辞任したことを受けて行われた。SPDは長期低落傾向にあるうえ、近年は支持率低下が加速していることから、次期党首に名乗りを上げる候補は当初、誰もおらず、ラインラント・ファルツ州のマル・ドライヤー首相など副党首3人が党首職を代行してきた。

同党は党首候補がペアで立候補する共同党首制を導入することを決めたうえで、今回の党首選を開始した。立候補したのは当初、連立政権に批判的な候補だけだった。これを危惧したショルツ財務相は不出馬方針を翻し、ガイヴィッツ前州議会議員と共同で立候補。10月に実施された一次投票では22.7%を獲得し1位となった。

両共同候補は今回の決選投票でも勝利し、次期党首に選出されると目されていた。だが、得票率は45.3%で、エスケン/ヴァルターボルヤンス共同候補(53.1%)を約8ポイント下回っており、SPDの党員はCDU/CSUとの連立政権に「ノー」を突き付けた格好だ。

SPD凋落の背景には、戦後の独・欧州で中道左派の中核を担ってきた社会民主主義の存立基盤が狭まっているという構造的な原因のほか、CDU/CSUとの連立が長期化するにつれて有権者に独自色をアピールできなくなっているという事情がある。このため、一般党員の間では政権からの離脱を求める声が強くなっている。党員のこうした危機感が、政治的な実績がほとんどなく知名度も低いエスケン/ヴァルターボルヤンス共同候補を勝利へと導いた。

次期党首は政権協定見直しを要求

両候補は政権からの即時離脱は主張していないものの、SPDとCDU/CSUが昨年2月に取り決めた政権協定の見直しを求めている。具体的には最低賃金を現在の1時間当たり9.19ユーロから12ユーロへと大幅に引き上げることや、財政赤字の計上を回避する「シュヴァルツェ・ヌル(黒字のゼロ)」政策からの脱却、温暖化対策の強化、企業の取締役に一定比率以上の女性を採用することの義務化などを要求している。

CDU/CSUは政権協定締結後の情勢変化に対応するために新たな政策を与党が取り決めることには前向きな姿勢を示しているものの、協定の見直しには応じない意向だ。協定交渉では政権入りを嫌がるSPDの同意を取り付けるために大幅な譲歩を行っており、さらなる譲歩を行うと党内から強い反発が出るという事情がある。

SPDとCDU/CSUが妥協点を見いだせない場合は、SPDが政権から離脱する可能性が高まる。この場合、メルケル政権は(1)少数派政権として存続する(2)SPD以外の政党と連立を組み過半数政権を新たに樹立する(3)解散総選挙――の選択を迫られることになる。(2)は同じ中道右派の自由民主党(FDP)、中道左派の緑の党との3会派連立しかあり得ないが、前回の選挙に比べて支持率が大幅に高まっている緑の党は解散総選挙を求めるとみられることから、実現の可能性は低い。

解散総選挙はCDU/CSUとSPDが回避したいシナリオだ。ともに支持率が大きく低下しているためで、現時点で選挙を強行すれば議席数を大幅に減らすことになる。今期限りでの引退を表明しているメルケル首相(CDU)の後継者問題もCDU/CSUにとっては頭痛の種であり、SPDとの連立は可能な限り維持したいというのが本音だ。

SPD内にも最低保障年金や石炭発電廃止政策など「やりかけの仕事」を最後まで仕上げたいと考える議員・閣僚が多く、こうした勢力は連立維持に注力するとみられる。