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2021/5/5

総合 - ドイツ経済ニュース

温出効果ガス排出削減強化へ、憲法裁判断受け主要政党打ち出す

この記事の要約

温室効果ガスの排出削減を一段と強化する動きが主要政党の間でにわかに活発化してきた。きっかけはドイツの温出効果ガス排出削減目標を定めた環境保護法(KSG)を一部、違憲とする連邦憲法裁判所(BVerfG)の決定。9月に連邦議 […]

温室効果ガスの排出削減を一段と強化する動きが主要政党の間でにわかに活発化してきた。きっかけはドイツの温出効果ガス排出削減目標を定めた環境保護法(KSG)を一部、違憲とする連邦憲法裁判所(BVerfG)の決定。9月に連邦議会(下院)選挙を控えていることから、各党は大きな争点となりそうな環境分野でポイントを稼ぐ狙いだ。

連邦憲法裁は4月29日、KSGを違憲として環境保護活動家などが提訴していた係争で訴えを一部、認める決定を下した。2050年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を実現するとしているにも関わらず同法に明記されている削減目標値などが30年までにとどまり、31年以降は記されていないことを裁判官は問題視。排出削減の負担の多くの31年以降に先送りすることは将来の世代の自由権を不当に制限することになるとして、22年末までのKSG改正を議会に命じた。議会は31年から50年までの温出効果ガス排出削減目標値などを改正法に盛り込むことを義務付けられる。

KSGは2019年12月に可決・施行された。温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定を踏まえたもので、二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量を差し引きでゼロとする炭素中立を50年までに実現するという目標を明記している。

同法には排出量を30年までに1990年比55%以下に削減するとの規定がある。また、これを実現するためにエネルギー、製造業、運輸、建造物、農業、その他の6部門の年排出許容量を設定することも記されている(表を参照)。31年以降はそうした具体的な規定がないことから、憲法裁は違憲と判断した。温出効果ガスは生活のほぼすべての領域で排出されることから、将来の排出削減義務は実質的にあらゆる種類の自由に影響を及ぼすという論理だ。

緑の党は70%削減を要求

スフェンヤ・シュルツェ環境相(社会民主党=SPD)は憲法裁の決定を受け、世代間の公平を実現するためには同裁が命じた30年以降のCO2排出削減目標値を設定するだけでなく、20年代の削減目標を大幅に引き上げなければならないと発言。30年までに19年比62~68%の削減が妥当だとする専門家の提言を「真摯に受け止め」、KSG改正に向けた提案を5月第1週中にも行う意向を表明した。

与党キリスト教民主同盟(CDU)のアーミン・ラシェット党首(ノルトライン・ヴェストファーレン州首相)も炭素中立を「今世紀半ばよりも大幅に前の時点」で実現するとの目標をKSG改正案に盛り込まなければならないと明言した。今年初に導入された建造物と運輸部門を対象とするCO2排出料金を大幅に引き上げることを要求している。

CDUの姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)のマルクス・ゼーダー党首(バイエルン州首相)は、同州で炭素中立を40年までに達成する意向を表明。新築家屋にソーラー発電設備の設置を義務付けることや、電動車の普及を加速させることを具体策として挙げた。

与党のSPDとCDU/CSUが憲法裁の命令よりも踏み込んだ政策案を打ち出す背景には環境政党、緑の党の躍進がある。緑の党に対抗するためには温暖化防止分野で大胆な姿勢を示す必要があると考えているもようだ。

緑の党はCO2排出料金を1トン当たり現在の25ユーロから60ユーロへと引き上げるなどの措置を通して、30年までの排出削減幅を70%に拡大することを政府に要求している。

経済界はBVerfGの今回の決定を歓迎している。独産業連盟(BDI)は、炭素中立実現に向けた31年以降の排出削減目標値などが設定されれば、企業は技術開発や投資面で長期の事業計画を立てやすくなると指摘。製造業はCO2を排出しない製造技術などのイノベーションで温暖化防止に貢献できるとの見解を表明した。

ただ、SPDなどが30年目標を急ぎ足で引き上げようとしていることについては疑問を投げかけている。欧州連合(EU)が域内の30年の排出削減目標を従来の90年比40%から55%以上に引き上げる方針を固めたためだ。

これによりドイツに義務付けられる削減幅はこれまでの55%から大幅に引き上げられるものの、欧州委員会が同数値を提案するのは7月半ばの見通しであるため、それ以前にドイツが自国目標を単独で決定するのは性急だとしている。