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2021/12/1

総合 - ドイツ経済ニュース

政権協定が成立、新政権は12月9日までに樹立

この記事の要約

次期政権を樹立予定の社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)は11月24日、政権協定を発表した。3党はそれぞれが重視する政策分野で大臣ポストを獲得。政策内容面でも折り合いをつけた。政権協議中に悪化した新型コロナ […]

次期政権を樹立予定の社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)は11月24日、政権協定を発表した。3党はそれぞれが重視する政策分野で大臣ポストを獲得。政策内容面でも折り合いをつけた。政権協議中に悪化した新型コロナウイルスの感染状況については協定の前文で「最も緊急の課題」と明記しており、常設の危機対策本部を設置し対応する意向を表明した。3党は今後、党大会などで承認を得、SPDのオーラフ・ショルツ氏を首班とする新政権を12月9日までに打ち立てる見通しだ。

第一党のSPDは次期政権で、内務・祖国、労働・社会、防衛、保健、建設、経済開発・協力の6大臣と官庁長官のポストを獲得する。選挙戦では最低賃金の大幅引き上げや年金負担・受給額の安定、住宅不足の早期解消を前面に打ち出しており、同党から輩出される労働・社会相と建設相は公約の実現に主導的に取り組むことになる。

緑の党は外務、経済・気候、家族・高齢者・女性・青少年、環境・自然保護・原子力安全・消費者保護、食糧・農業の5ポストを手に入れた。温暖化防止政策を展開するうえで重要なポストを、交通を除いて掌握することになった。

小さな政府を掲げるFDPは財務、司法、交通・デジタル、教育・研究の4ポストを獲得した。クリスティアン・リントナー党首は選挙戦の最中から財務相就任に強い意欲を示しており、目的を達成した格好だ。増税と財政規律の緩和を認めないという公約を政権協定に盛り込むことにも成功している。

緑の党は石炭火力発電の全廃時期を現行法で定められた「2035~38年」ら30年へと大幅に前倒しすることを選挙で訴えてきた。だが、10月中旬にまとめられた政権樹立予備交渉の合意文書では同発電を「可能であれば」30年にも全廃できるようにするという内容に後退。これに対し環境保護団体から強い批判が出たことから、同党は30年に確実に全廃できる内容へと3党合意を改めようとしたが、実現できなかった。代替電源の確保が難しいことや、国内炭鉱地域の産業構造転換計画に支障がでることをSPDが懸念したことが背景にあるもようだ。

緑の党の公約では、温暖化防止に反する法案に対し気候相が拒否権を発動できるようにするとした要求も実現しなかった。代わりに、各法案にそうした政策が含まれていないかどうかを関連省庁が法案作成段階でチェックすることが取り決められた。

次期政権は温暖化防止対策の強化とデジタル化の推進を重要課題に設定している。これには多額の資金が必要となるが、増税せずに十分な財源を確保できるかどうかには疑問の声が出ている。政策理念が大きく異なる3党の政権運営がスムーズに機能するかどうかにも関心が集まりそうだ。

温暖化防止政策分野ではすでにFDPと緑の党が火花を散らしている。交通・デジタル相に就任するFDPのフォルカー・ヴィッシング幹事長は『ビルト』紙のインタビューで、軽油増税のしわ寄せを受ける手工業者や配達事業者の負担を相殺するために車両税を引き下げる考えを表明。緑の党から反発が出ている。

台湾の国際機関参加を支持

外交・安全保障分野ではこれまでの政府方針をおおむね継承するもようだ。北大西洋条約機構(NATO)を安全保障の基幹と位置付けており、NATOは「脳死状態」として仏マクロン大統領が打ち出した欧州軍設立構想に距離を置いている。また、ドイツ国内に米軍の核兵器を保管する「ニュークリア・シェアリング」政策は緑の党とSPD内に廃止論があるものの継続することを決めた。無人機については兵士を守るためという条件付きながら初めて武装型を認めている。

一方、防衛費の対国内総生産(GDP)比率を2024年までに2%以上に引き上げるとしたNATO加盟国の取り決めに絡んでは、国際的な行為に長期的に3%を投資すると記すにとどめており、順守しない可能性が高い。

対中国では経済関係を保ちながら、人権侵害や周辺諸国への威圧などは批判・けん制するというこれまでの政府のスタンスを継承する。ただ、「一つの中国政策」の枠内としながらも、国際機関への台湾の参加を支持する意向を表明したことに対しては、中国外務省が「従来のドイツ政府はすべて一つの中国政策を堅持してきた。新しい政府がこの政策を堅持することを望む」との声明を発表し、けん制した。

FDPは欧州連合(EU)の財政規律ルール緩和に反対する方針を選挙公約に掲げていたが、この主張は3党の政権協定に盛り込まれなかった。ただ、次期財務相にはFDPのリントナー党首が就任することから、同ルールが大幅に緩和される可能性はないとみられる。同党首自身は公共放送ZDFのインタビューで、緩和を求めるイタリアなどの南欧諸国とそれに反対するオランダなどとの争いを「主導的な」立場で仲裁することに意欲を示した。