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2022/4/6

総合 - ドイツ経済ニュース

天然ガス供給に黄信号、露のルーブル払い要求受け政府が早期警戒発令

この記事の要約

ドイツ連邦経済・気候省は3月30日、天然ガスの国内供給が不足する可能性が出てきたとして、「早期警戒」を発令した。ロシアが自国産天然ガスの支払いを露ルーブルで行うよう「非友好国」の顧客に要求し、拒否した場合は供給停止も辞さ […]

ドイツ連邦経済・気候省は3月30日、天然ガスの国内供給が不足する可能性が出てきたとして、「早期警戒」を発令した。ロシアが自国産天然ガスの支払いを露ルーブルで行うよう「非友好国」の顧客に要求し、拒否した場合は供給停止も辞さない構えを見せていることを受けた措置。事態の悪化に備えて対策本部を設立した。ロベルト・ハーベック経済・気候相は、現時点で国内供給に支障は出ていないものの、ロシアが状況をエスカレートさせた場合に備えなければならないと述べた。企業や消費者にはガス消費を可能な限り抑制するよう要請している。

早期警戒は3段階からなる天然ガス供給の警戒システムの第1段階に当たるもの。同警戒システムは欧州連合(EU)の「天然ガスの安定供給確保に関する規則」に基づくもので、政府は早期警戒を発令したことをすでに欧州委員会に伝達した。

ガス販売・輸送事業者は市場で適切な措置を取るとともに、市場の情報を政府に定期的に伝えることを義務付けられる。これらの措置にもかかわらず供給状況が悪化した場合は第2段階の「警戒」、第3段階の「緊急」へと警戒レベルが引き上げられていく。緊急段階では国家が市場に介入。供給は一般消費者や病院向けが優先され、製造業などは後回しにされることから、天然ガスを利用するメーカーは早急に対策を立てる必要がある。それ以外の企業もサプライチェーンのさらなるひっ迫への対策が必要だ。

ロシアのプーチン大統領は23日、同国に制裁を課した米国、EU、日本などの「非友好国」の企業に天然ガスのルーブル決済を義務付ける意向を表明した。主要7カ国(G7)は28日、これを契約違反として受け入れ拒否の立場を表明したものの、ロシアは姿勢を改めておらず、プーチン大統領は31日、同義務を盛り込んだ大統領令に署名した。同令は4月1日付で施行されている。

非友好国の企業は露国営天然ガス大手ガスプロムの金融子会社ガスプロムバンクに外貨建てとルーブル建ての口座を開設し、支払いを行うことになった。両口座間で外貨からルーブルに両替されることから、非友好国の顧客は従来通り外貨で支払うことができる。RWEやユニパーなどドイツの顧客企業はこれまでガスプロムの口座にユーロ建てで代金を支払ってきた。ガスプロムバンクに口座を持っていなかった。同行は親会社ガスプロム同様、対露制裁の対象となっていない。

ドイツ政府は1日、同大統領令を入手して内容を詳細に検討する意向を表明した。これまでのところガス供給が停止される事態は起きていない。ロシア政府の狙いがどこにあるのかについては様々な観測が出ているが、現時点で真相は解明されていない。ガスプロムバンクでの2口座設置義務はルーブル払いを大々的に表明したプーチン大統領のメンツを保つための措置に過ぎないとの見方もある。

ロシアはルーブル支払い義務を石油など他の資源や製品に拡大することも検討している。

ガスプロムの独子会社を政府の管理下に

経済・気候省は4日には、ガスプロムの独子会社ガスプロム・ゲルマニアを信託管理下に置いたことを明らかにした。ガスプロムが同子会社を無許可で売却していたことが判明したためで、エネルギーの安定供給を確保するためにガスプロム・ゲルマニアの管理を独連邦ネットワーク庁に委託した。ハーベック経済・気候相は、国内のエネルギーインフラをロシア政府の恣意的な決定から守るための措置だと説明した。

ガスプロムは3月31日、ガスプロム・ゲルマニアの清算方針を明らかにした。これを受け、経済・気候省が調べたところ、ガスプロム・ゲルマニアをロシア企業のJSCパルマリーとガスプロム・エクスポート・ビジネス・サービシズ(GPEBS)を通して何者かが違法に買収していたことが判明。同省はガスプロム・ゲルマニアの信託管理を決定した。

ドイツではエネルギーなど重要インフラ分野の企業をEUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業が買収する場合、経済・気候省に計画を伝え承認を得なければならないことが、貿易法で定められている。ガスプロム・ゲルマニアの売却はこの手続きなしに行われたことから違法となる。売却先はすでに、ガスプロム・ゲルマニアの清算手続きを開始するよう指示を出していたという。

ガスプロム・ゲルマニアはドイツ北部のレーデンに同国最大のガス貯蔵施設を持っている。レーデンの貯蔵施設が仮になくなると、ロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガス供給の不安定化が一段と進む懸念があることから、経済・気候省は売却手続きを無効としたうえで、連邦ネットワーク庁の管理下に置いた。

この措置により、ガスプロム・ゲルマニアの出資者は決議権を行使できなくなった。連邦ネットワーク庁は役員の解任・任命権、経営の指示権を持つ。会社の資産を処分する際は同庁の承認を得なければならない。

経済・気候省は最悪の場合、ガスプロムと露国営石油大手ロスネフチの独子会社を国有化することを以前から検討している。ロスネフチはベルリンとブランデンブルク州に石油製品を供給する製油所(PCKラフィネリー)の過半数資本を持つことから、同製油所での精製を意図的に減らしたり停止する懸念がある。

ただ、国有化は法的なリスクを伴うことから、連立与党の自由民主党(FDP)は懐疑的だ。ハーベック氏(緑の党)もガスプロム・ゲルマニアの信託管理期間終了後、同社を国有化するかどうかについて明言を控えている。