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2022/10/26

総合 - ドイツ経済ニュース

ガス不足の発生リスクが低下、予想を上回る備蓄拡大で

この記事の要約

ドイツ連邦ネットワーク庁(BNetzA)は20日、2022~23年冬の国内天然ガス備蓄率に関する新たな予測を発表した。前回の予測を公開した8月初旬以降、状況が改善し、備蓄が予想を上回るスピードで拡大していることを受けたも […]

ドイツ連邦ネットワーク庁(BNetzA)は20日、2022~23年冬の国内天然ガス備蓄率に関する新たな予測を発表した。前回の予測を公開した8月初旬以降、状況が改善し、備蓄が予想を上回るスピードで拡大していることを受けたもの。最悪の場合はガス不足が発生する可能性を排除していないものの、そのリスクは低下したとしている。

同国ではこれまで強く依存してきたロシア産天然ガスの供給削減・停止を受け、冬季のガス不足が懸念されている。政府はこれを受け、備蓄制度を導入。ガス貯蔵事業者に、毎年9月1日時点で容量の75%、10月1日時点で85%、11月1日時点で95%の確保を義務付けた。

ネットワーク庁の20日付ガス日報によると、全国平均の備蓄率は現在96.49%に上る。国内最大のレーデン貯蔵所では86.62%と平均を下回っているものの、全国レベルでは同庁の従来予測を上回る高水準に達している。

備蓄が予想以上に増えたのは◇ベルギー、オランダ、ノルウェーからの輸入が拡大たうえ、フランスからの輸入も始まった◇ドイツから南欧・東欧への輸出が減った――ためだ。今年末から来年初頭にかけて国内で稼働開始予定の浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(FSRU)が従来見通しの2カ所から3カ所に増えたこともあり、2022~23年冬の見通しは相対的に明るくなった。

ネットワーク庁によると、ガスの輸入から輸出を除いた純輸入量は10月の現時点で1時間当たり97ギガワット時(GWh)に上る。この量は今後、減少する見通し。暖房の使用が欧州全体で増え、オランダやベルギーからの輸入が減り、東欧や南欧への輸出が増えるためだ。同庁はこれを踏まえ、冬季のガス備蓄率に関する計4つのシナリオを作成した。国内消費量が前年比で20%低下するとともに、備蓄の取り崩しが10月末に始まることを前提条件としたうえで、平均気温が平年並みとなった場合と、平均気温が平年を下回るうえ2月に厳しい寒波が到来した場合(2012年がモデル)の2ケースを想定している。

平均気温が平年並みとなった場合では1時間当たりの純輸入量が現在よりも19GW少ない78GWhに減少するシナリオと、46GW減の51GWhに減少するシナリオを提示した。前者では来年3月初旬~中旬まで備蓄の取り崩しが続き、備蓄率の底打ちは約54%と比較的高い水準を保つ。このため23~24年冬に向けた備蓄の確保が比較的、行いやすくなる。

これに対し後者のシナリオでは備蓄の取り崩しが来年4月中旬までと長く続き、その時点で備蓄がほぼ底を突くことから、23~24年冬に向けた備蓄の確保が難しくなる。

平均気温が平年を下回るうえ2月に厳しい寒波が到来した場合は、備蓄の減少が早いスピードで進む。純輸入量が78GWhに減少したシナリオでは3月時点の備蓄率が約47%となり、気温が平年並みだった場合を約7ポイント下回る。純輸入量が51GWhへの大幅に減ったシナリオでは2月末時点で備蓄が底を突く。ただ、最悪の場合は今年11月末で備蓄がなくなるとした前回の予測に比べると、国内貯蔵施設が空になる時期が3カ月遅い。

ガス料金負担の軽減拡大も

一方、天然ガス価格高騰に苦しむ一般世帯と企業の支援に向け政府諮問委員会が先ごろ発表した政策案については、部分的な見直しを求める声が強まっている。負担軽減効果が十分でないとの批判が州政府や経済界から出ているためで、政府・与党内にも修正に前向きな意見が出ている。

諮問委は10日、一般世帯・中小企業向けの負担軽減策を2段階に分けて実施することを政府に提言した。まずは今年12月に支払う予定のガス料金を国が全額負担。2023年3月1日から24年4月末までは一定限度内のガス使用量に上限価格を設定し、これを超える費用部分については国が負担を引き受けることを提案している。

この提言に従うと、来年1月と2月は国の支援が一切なく、世帯と小規模事業者は高額なガス料金を支払うことになるため、見直し要求が強まっている。ショルツ首相は22日に手工業団体の会議で行った演説で、ガス上限価格の導入を1月1日に前倒しすることに前向きな意向を表明した。

ただ、諮問委が3月開始を提言したのは準備に時間がかかるという事情を踏まえたためで、1月への前倒しは技術的に難しい。独エネルギー水道産業連合会(BDEW)のマリールイーゼ・ヴォルフ会長は、ITプロセスの変更は複雑で時間を要するため、前倒しは不可能だと明言した。

与党内にはこうした事情を踏まえ、国によるガス料金の全額負担を12月だけでなく1月と2月にも拡大するとの案が浮上している。