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2022/11/9

総合 - ドイツ経済ニュース

疑惑の視線のなかで首相が訪中、依存低減を強調も財界人同伴で効果相殺

この記事の要約

ドイツのオーラフ・ショルツ首相は4日、中国を訪問した。共産党の習近平総書記(国家主席)を中心とする3期目の最高指導部が成立した後に主要7カ国(G7)の首脳が訪中するのは初めて。習政権の独裁色強化、ロシアのウクライナ進攻に […]

ドイツのオーラフ・ショルツ首相は4日、中国を訪問した。共産党の習近平総書記(国家主席)を中心とする3期目の最高指導部が成立した後に主要7カ国(G7)の首脳が訪中するのは初めて。習政権の独裁色強化、ロシアのウクライナ進攻に伴う国際情勢の変化などこれまでとは環境が大きく異なっていることから、世界の強い注目を集めた。経済的な結びつきが深い中国との関係をドイツが改めるのか、また改めるとすればどのようなものにするつもりなのかが関心の焦点だ。

ドイツは改革開放後の中国と経済的な関係を一貫して強化してきた。メルケル前政権は知財権侵害や外資に対する市場アクセス制限を批判したものの、急成長が続く巨大市場の中国との経済関係の拡大路線は維持していた。

だが、コロナ禍やロシアのウクライナ進攻で特定国に強く依存することの危険性が鮮明となったことから、資源・部品の調達と製品販売市場を速やかに多様化する必要性が切実な課題として浮上している。

現在のエネルギー危機は安価なロシア産天然ガスに強く依存する経済政策が裏目に出たものだ。中国に対するドイツの経済的な依存度は対ロシアを大幅に上回っており、対中政策の見直しは避けられない。

そうしたなかドイツ政府は10月下旬、同国北部のハンブルク港トラーオルト・コンテナター埠頭(CTT)に海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)が出資する計画を制限付きながら承認した。COSCOは「海洋強国」化を目指す中国政府の「一帯一路」政策の主要プレイヤーであり、同出資に対しては米国や欧州連合(EU)が懸念を示していただけでなく、政府・与党内でも反対意見が強かった。それにもかかわらず、出資を認めたのは大きな経済・雇用創出効果を期待するショルツ首相が出資を支持したためだ。

今回の訪中はその直後であっただけに、疑惑の眼差しが向けられていた。財界人12人を同伴していたことは疑いを増幅させた。

「双循環」への対応がカギ

ショルツ氏はこうした事情を念頭に置いた一文を3日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に寄稿。中国首脳とは5つのテーマについて話し合う考えであることを明らかにした。

まずは、中国がマルクス・レーニン主義への傾斜を大幅に強めて共産主義体制の安定と国家の自律を志向するようになり、5年前や10年前とは大きく変わってしまったことを挙げた。これを受けてドイツの中国との関係も変わらざるを得ないとしている。

ロシアのウクライナ進攻と、核兵器使用の選択肢を排除しないプーチン大統領の姿勢を受け世界も変わってしまったという認識も示した。国連の常任理事国である中国には国連憲章の順守をロシアに強く促す義務があると迫っている。それと同時に、世界がブロック化して中国が孤立することも、中国が世界の覇権を目指すことも支持しない考えを明示した。

3つ目の問題としては、中国経済の自立性を確立すると同時に他国を中国に経済・技術面で依存させることを目指す「双循環」戦略を指摘。ドイツ政府は中国依存を低減するために自国企業がサプライチェーンを多様化することを支援すると表明した。中国企業の対独投資でも依存リスクが生じないよう適切な制御を行う意向で、CTTへのCOSCOの出資比率を制限したのはこれに基づく措置だと強調している。中国が外資の市場アクセスや知財権保護、法的安定性の面で互恵主義に反する政策を継続すれば、独・EU側はそれに見合った対応を取ると警告も行った。

4つ目には中国における政治的自由の制限、新疆ウイグル自治区などでの少数民族抑圧、緊張を増す台湾問題を挙げた。中国が内政問題として他国の批判に拒否反応を示すこれらの難しい案件についても率直に議論する考えを示した。

5番目のテーマはパートナー、競争相手、体制上の競合という3つの側面を持つ両国関係をめぐるもの。近年は競争相手、体制上の競合という側面が強まっているが、コロナ禍や二酸化炭素(CO2)の排出削減、食糧危機といったグローバルな問題を解決するためにはパートナーとして協力する必要があることを強調している。

5つのテーマのうち、経済、安全保障、外交面で戦略的に最も重要なのは双循環に関するものである。ドイツが意図に反して経済的な中国依存を深めれば、中国に有利な形で政策の余地が狭められる恐れがあるためだ。

退任が決まった李克強首相とはこの問題について話し合ったもようだ。ショルツ氏は李氏との共同記者会見で、「(ドイツが)自由に行動できなくなることにつながる依存が生まれない」ことの重要性を強調した。ただ、協議がどの程度、突っ込んだものだったかを外部からうかがい知ることはできない。来年第1四半期に公表予定の新しい中国戦略でドイツ政府がどのような方針を打ち出すかが注目される。