欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/1/19

EU産業・貿易

対米貿易協定のISD条項に「強い懸念」欧州委が意見聴取の結果を公表

この記事の要約

欧州委員会は13日、米国との環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)に関連して、投資家保護を目的とするISD(投資家対国家の紛争解決)条項に関する意見募集の結果を公表した。各方面から寄せられた意見や提案のうち、同条項に対する […]

欧州委員会は13日、米国との環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)に関連して、投資家保護を目的とするISD(投資家対国家の紛争解決)条項に関する意見募集の結果を公表した。各方面から寄せられた意見や提案のうち、同条項に対する懸念や否定的な見解を含むものが大半を占めたことを受け、加盟国政府、欧州議会、企業や消費者団体をはじめとする利害関係者と対応を協議したうえで、今後の交渉方針をまとめる意向を示している。EUは年内の妥結を目指しているが、EU内での意見調整が難航して全体の交渉スケジュールが遅れる可能性が高まってきた。

ISD条項は、投資先の法律や制度が変更されたことで外国企業が損害を受けた場合、その企業が当該国を相手に中立的な国際機関に仲裁を申し入れ、制度の廃止や賠償を請求する権利を認める規定。海外で活動する企業にとってメリットがある一方、国家の規制権限が制限される側面もある。このためTTIPに同条項が導入された場合、農業、食品安全、環境などの分野でEU側が譲歩を迫られ、結果的に消費者が不利益を被るといった批判がある。欧州委はとりわけドイツが同条項を協定に盛り込むことに難色を示しているほか、消費者団体や環境保護団体などを中心に懸念が広がっている現状を踏まえ、昨年3月末から7月中旬にかけて意見募集を行った。

欧州委によると、各方面から寄せられたおよそ15万件に上る意見や提案のうち、個人からの回答が3,000件、業界団体、労働組合、消費者団体などからは450件で、残り97%にあたる約14万5,000件は、TTIPに反対する非政府組織(NGO)などがオンライン上に用意した否定的な回答のひな形を使用したものだった。ただ、欧州委はこうした行動も協定に対する不満と受け止める必要があると指摘している。一方、特に懸念する意見が多かった項目として、各国の規制権限の確保、国際仲裁機関の組織体制と機能、各国の司法制度とISD条項の関係などを挙げている。

欧州委のマルムストロム委員(通商担当)は「ISD条項に対する根強い懸念があることが明らかになった。投資保護およびISD条項について勧告をまとめる前に、各方面と率直に議論する必要がある」と指摘。TTIPはEUの成長と雇用創出、さらに国際社会に対する影響力の強化につながると強調したうえで、「欧州委は加盟国政府の規制権限を弱めたり、EUの規制基準を引き下げるような協定は決して受け入れないし検討もしない」と明言した。